リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

アンチエイジングに大切な成長ホルモンとその分泌を促す3つの要素とは!?

ここ数年、アンチエイジングという言葉を耳にする機会が増えていますよね。

メディアでも「美魔女」といわれる美意識の高い、年齢に不釣り合いなほどの美しい容姿を保った女性たちが登場しています。

そしてその女性たちの生活習慣や食事、サプリメントや美容テクニック、さらには遺伝子検査での分析など、様々な面から取りざたされています。

このような情報に興味を持つ女性が、日本にもたくさんおられるのは、SNSや雑誌の特集などを見ても明らかです。

ひとの外見というのは、もって生まれたものによるところが大きいですが、生活習慣や努力で変えられる部分もたくさんあります。

化粧品やサプリメント、エステなどでも、美容や若返りの効果をうたったものが数えきれないほどありますし、それぞれに需要があるというのを見ると、世の女性たちの、若く美しくいたいというほんとうに強い熱意を感じます。

ただ、努力をしたりお金をかけたりする時間と金銭面での余裕があれば良いのですが、なにかと忙しい現代人の生活の中で、自分自身をかえりみてカラダとメンタル面のケアをする余裕がなかなかないのもまた、事実ですよね。

そんなふうにがんばっておられる方こそ、本当はご自身のケアをしっかりしてあげることが大切です。

 

美容と健康に効果のある生活スタイルを送るには、高価な美容液を買ってきたり、毎日時間をかけてお肌のお手入れをしたり、エステに通ったりしなくても、あなたの普段の生活の中でできる工夫や心がけはたくさんあります。

この記事では、手間もお金もかからない、しかも体に負担となるような薬剤や添加物も使わない、今日からできるアンチエイジング情報をお伝えしたいと思います。

これは即効性のある魔法のようなテクニックではありませんが、自分の身体をカラダの内側から、いきいきとした状態に保ってくれるという意味では、どんな高価な薬やサプリメントよりも安全、安心で、アレルギーも起こさず、効果を発揮してくれるように期待できるものです。

f:id:yamaaa63:20180106133551j:plain

 

カラダの内側から若返って、外見も若々しくなりましょう!

ひとが自分のからだの中から若さを保ち、できることなら今よりも若々しくいたいと思うとき、カギとなるのは脳下垂体から分泌される成長ホルモンの存在です。

「成長ホルモン」という言葉は、だれしも耳にされたことがあると思います。

成長期の子どもの身長が伸びたり、骨や筋肉、内臓の機能が発達したり、新陳代謝をアップさせる役割を持つホルモンのことです。

しかしながら、じつはこの成長ホルモン、大人になってもしっかり分泌されているのです。

近年、特に美容整形の分野では、この成長ホルモンがアンチエイジングの治療に有効であるということが分かってきていて、盛んに研究がすすめられています。

成長ホルモンは、成長期の15歳から20歳くらいの間に分泌のピークを迎えます。

そして年齢を重ねるにつれて、分泌量は減少していきます。

それでも、成長ホルモンが体内からまったくなくなることはありませんし、状態によっては、同年代の他の人たちと比べて多くの成長ホルモンが分泌されることもあります。

美容の世界では、この成長ホルモンを人為的に体内へ補充することによって、成長期を過ぎた大人でも成長ホルモンの作用を増幅させて、いわゆるアンチエイジングの効果を出している手法も出てきています。

たとえば注射や経口というかたちで、体内に成長ホルモンを取り込むと、新陳代謝の低下や筋肉量の減少を防いでくれたり、筋肉や骨の萎縮の予防になったり、体脂肪の増加を抑えたり、といった変化が体の中で起こってきます。

この変化が、たるんだ身体をぐっと引き締め、適度に筋肉質なカラダへと生まれ変わり、結果として肌に張りが出てきたり、きめが細かくなったりすることもあります。

こうした効果から、成長ホルモンは「若返りホルモン」と言われるようになったのです。

 

成長ホルモンは、人体の成長や代謝などをつかさどるホルモンで、老化現象と深い関わりがあります。

その分泌量は、20歳の時と比較して40歳の時点では約40%、80歳になると5%にまで減少していきます。

成長ホルモンの分泌量が減少すると、骨や筋肉への影響だけでなく、心臓の機能が低下して全身の血流が悪くなったり、その影響で新陳代謝も悪くなるといった悪影響が出てきます。

こうした全身の循環状態の悪化は、まわりまわってお肌の状態に大きなダメージを与え、見た目も老けこんだように見えてしまいます。

もちろん美容クリニックで治療を受けて、体の外から成長ホルモンを補充することで、こうしたエイジングの影響は軽減できるかもしれません。

しかし、成長ホルモンは本来、自分のからだの中で分泌され、からだ全体に行きわたっていくものです。

しかも、大人になってから成長ホルモンの分泌量を増やせる、いくつかのポイントが分かってきています。

お金をかけず、安全な方法で、カラダの中身も外見も若々しくなれる方法があれば、こんな良い話はないと思いませんか?

 

成長ホルモンを出す!増やす!

年齢を重ねるとともに、成長ホルモンの分泌量は減少してしまいますが、少し工夫するだけで、分泌量が増えるように促すこともできます。

分泌量を増やすためにとても重要なのは3つ、「睡眠・空腹・運動」です。こんなありがちなことで良いのかと思われるかもしれませんが、健康だけでなくアンチエイジングにもとても効果的なのです。

 

1つめは「睡眠」です。

寝る子は育つ、と言われますが、成長期には良質な睡眠をしっかりとることがとても重要です。

成長ホルモンは24時間分泌されてはいますが、主に分泌されるのは睡眠中です。

その中でも特にたくさん分泌されるのは、眠りについてから30分後~1時間後、ノンレム睡眠の最中に、いちばん多く分泌されます。

成長ホルモンが分泌されると、寝ている間に肌の新陳代謝が活発になったり、血液循環がよくなってお肌の老廃物を取り除いたりしてくれます。

そのため、お肌のコンディションを整えて維持するためには、しっかり睡眠をとることがとても重要で、特に寝始めてからの3時間程度は深く眠れるように条件を整えることがとても大切なのです。

睡眠不足になると、成長ホルモンを分泌するチャンスを失い、シミやしわ、肌荒れなどの原因にもなります。

また寝る前の習慣によって、ぐっすり眠れるか、眠りが浅くなってしまうかが左右されます。

寝る直前までテレビを見たり、パソコンやスマートフォンを触っている方もおられるかもしれません。

できることなら、寝る一時間前には、刺激の強い電子機器の使用は控えることにして、ぐっすり眠りましょう!

 

2つめは「空腹」です。

朝起きて、1日が始まるとき、お腹は空っぽになっています。

この状態になると、蓄積された体脂肪をエネルギー源として燃やす回路が活発に働き出し、同時に肌の調子を良くしようという働きも高まります。

小腹がすいたらすぐに間食したくなるのをぐっと我慢して、できたら食事の前には毎回、しっかりとお腹が空いた状態にしてあげることが大切です。

もちろん規則正しい生活習慣には、お食事の時間も含まれますし、毎日決まった時間に三度の食事をとることも大切ですが、成長ホルモンを分泌させるためには、空腹になったら食べるようにした方が効果的なんです。

 

3つ目は「運動」です。

成長ホルモンの分泌をふやすのに、特に効果的なのは、ゆっくりで良いので繰り返して行える筋力トレーニングです。

難しい動きや高い強度の運動をする必要はありません。たとえば、立ったままで膝の曲げ伸ばしをするスクワットなら、ゆっくり10回ほど行なって、太ももが少しだるくなってくるくらいで十分です。

筋トレを行った後にはなんと、成長ホルモンの分泌量が100倍以上にまで増えるというデータもあります!

 

時間もお金もかからないちょっとした工夫や努力で、成長ホルモンの分泌量を増やす生活スタイルが可能になります。

そしてお気づきかもしれませんが、いわゆる健康的な生活ともほぼ同じことです。

アンチエイジングと健康と一挙両得、ぜひトライしてみてくださいね。

お金持ちは知っている!覚えておきたい「複利」の力!

f:id:yamaaa63:20171228221048j:plain

”アルベルト・アインシュタイン
「複利は人類最大の数学的発見」”

 

単利と複利

銀行などに預金をすると利息が付いてきますが、その利息の付き方として「単利」と「複利」というものが存在します。

資産運用などの勉強をしている方にとっては、初歩中の初歩ではあると思いますが改めて「単利」と「複利」について勉強していきましょう。

 

単利とは?

単利は預け入れた元本が一定で、その元本にのみ利息が付きます。

 

例えば「100万円」を1年間「10%」の利回りで運用できる金融商品があったとしましょう。

それを「10年間」の間「単利」で運用したとします。

 

1年目:100万円×10%=10万円

2年目:100万円×10%=10万円

3年目:100万円×10%=10万円

                         ・

                         ・

                         ・

10年目:100万円×10%=10万円

1年目も2年目も3年目も10年目も元本が一定なため利息によって入ってくるお金もずっと10万円と一定です。

逆に「複利」で運用するとどうなるか見ていきましょう。

 

複利とは?

複利は預け入れた元本に利息が付いたものが次の元本となります。

つまり「元本+利息」が次の元本になり、その「元本+利息」に対して利息が付くという訳です。

例えば「100万円」を1年間「10%」の利回りで運用できる金融商品があったとしましょう。

それを「10年間」の間「複利」で運用したとします。

1年目:100万円×10%=10万円

2年目:110万円×10%=11万円

3年目:121万円×10%=12万1000円

                         ・

                         ・

                         ・

10年目:235万7946円×10%=23万5794円

どうですか!?

10年後には利息が付いた金額が単利に比べ倍以上になっています。

 

72の法則

これで「複利」のことについてはなんとなく理解できたかと思います。

そこで更に「72の法則」というものを紹介します。

皆さん複利運用において元本が どれくらいで2倍になるかを簡単に計算できたら便利だと思いませんか?

 

”「72の法則」とは…

元本が2倍になる「年利」と「年数」が簡単に求められる法則です。”

 

計算式:72=利息×年数

 

例えば「100万円」を年利1%で複利運用したとしましょう。

この場合元本である「100万円」が2倍になる年数は72年になります。

計算はこうなります

72=1×年数

年数=72÷1

年数=72

 

簡単ですね!

 

今度は「100万」を年利4%で複利運用したとしましょう。

この場合元本である「100万円」が2倍になる年数は18年になります。

計算式はこうなります

72=4×年数

年数=72÷4

年数=18

 

0歳から運用したら高校を卒業する頃には働かずして2倍になってるってことですね。

まさにこれが「お金に働いてもらう」ということですね。

 

当たり前ですが「複利」の力を借りてお金を増やそうとするなら早ければ早い程有利です。

つまり50歳とか60歳になって「よし!お金を増やすぞ」と複利の力を借りようとしても遅いわけです。

 

最後に

ここまで「複利」について勉強をしてきましたが、こういったことはアメリカの高校生の教科書には初歩中の初歩として書かれています。

日本人はお金の勉強を敬遠しがちなため、お金の基本的な事実さえも知らずに生活しています。

例えばあなたは金利が上がっていくとき、資金の運用、借り入れはそれぞれ「固定金利」ですべきか、「変動金利」ですべきか知っていますか?

こういったことを周りの人で理解している人はほぼいません。

お金の知識がなければ損すべきでないことも損してしまいます。

これからはますます自分のお金は自分で守っていく力が必須となってくるかと思います。

 

空腹の効果!空腹とホルモンの関係とは!?

f:id:yamaaa63:20171228194706j:plain

1日何回くらい、空腹感を感じますか? 

規則正しく1日3食、バランスのとれた食事をとることが、健康的な生活習慣ということは、いまや常識ですよね。

ところが、お腹が空いた状態の方が、美容と健康に効果的な面もあるのです。

今回は、最近耳にすることが増えている若返りホルモン(=成長ホルモン)との関連から、空腹な時間がなぜ、からだに必要なのかをご紹介します。

 

お腹が空いているときに、カラダの中で起こっていること

お腹が空くと、食欲増進作用のあるグレリンというホルモンが分泌されます。

このグレリンは、成長ホルモンの分泌も促進します。

成長ホルモンは新陳代謝に必要なホルモンで、大人になってからも重要な役割を果たしてくれています。

新陳代謝が活発になると疲れが取れやすくなったり、免疫力が上がって病気の治りが良くなったり、全身の血流が良くなって肌がキレイになるという効果も期待できます。

 

食事のベストタイミングって?

ということで、新陳代謝のことを考えるなら、必ず決まった時間に食べるよりも、お腹が空いたら食べる、という方がおすすめです。

また口さみしい時などに、お腹も空いていないのに間食するのはやめて、1日2~3回、お腹が空いた状態を脳が認識できる状況を作ることがとても大切です。
また、食事の際にはよく噛むことが大切です。

子どもの頃から、ひとくち30回は噛みなさい、と言われていましたよね。

咀嚼の回数が増えると、脳が活性化したり、唾液の分泌量が増えて、全身の皮膚や血管の細胞が活性化する効果もあります。

 

食事が美容と健康の敵になってしまうことも⁉

反対に、成長ホルモンの分泌量を減らしてしまう食習慣もあります。

寝る前に糖質を摂ることです。

ここでいう糖質は甘いものというだけでなく、ビールや日本酒などのアルコールや、ご飯、パン、麺類などの主食も含みます。

糖質を食べると消化吸収され、血糖値が上がるのですが、血糖値の過剰な上昇を防ぐために、インスリンというホルモンが分泌されます。

このインスリンはとても重要で、食後に分泌されなければ困るのですが、インスリンが血液中にある間は、成長ホルモンが分泌されなくなる作用があるのです。

寝ている間は成長ホルモンが分泌されて、美肌や免疫力アップのための貴重なチャンスなのに、みすみすそれを手離すなんてもったいないですよね。

夜にお酒を飲み、シメにラーメンやお茶漬けを食べてからすぐ寝てしまう習慣は、その瞬間はとても幸せを感じられるものですが、本当は避けた方が良いのです。

少なくとも、寝る2時間前には糖質を含む食べ物、飲み物は摂り終えておくのがおすすめです。

脊髄損傷のリハビリテーション

はじめに

脊髄は、脳からの運動指令を四肢に伝達を行ったり、触れた物の感覚を脳へと伝える重要な通り道です。

この通り道に損傷を起こすと、運動障害・感覚障害を引き起こし、日常生活に多大な影響を及ぼします。

今回は脊髄損傷に対するリハビリテーションについてお話していきます。

 

概要

脊髄の解剖

脊髄は、脳から繋がる中枢神経であり、延髄の尾側から始まり第1腰椎から第2腰椎で脊髄円錐となり終わります。

分岐する神経根に対する脊髄の部位を髄節と呼び、頸髄が8髄節・胸髄が12髄節・腰髄が5髄節・仙髄が5髄節・尾髄が1髄節の合計31髄節からなります。

 

脊髄神経と脊椎の位置関係

脊髄神経は、脊椎にある脊椎孔を通り、連なって1本の管のようになっているため、脊柱管と呼ばれます。

脊髄神経の構造は、前側から出る前根と後側から出る後根の2本が合わさり、脊髄神経となって脊柱管から左右に1本ずつ出ます。

 

脊髄損傷とは

脊髄とは、脳と身体をつなぐ中枢神経の事で、この部位の損傷を脊髄損傷といいます。

主として大きな外傷を受け、脊椎が骨折・脱臼を起こした際に生じます。

また、骨折や脱臼が無くとも、脊柱管が狭いところに外傷が加わることで、脊髄損傷が生じる場合もあります。

 

・症状

完全麻痺と不全麻痺があり、損傷された部位から遠位の運動・知覚の障害を引き起こします。

完全麻痺は、損傷した部位から遠位の運動・知覚が全て失われます。

 

・診断

麻痺が存在し、MRIやX線で、脊椎・脊髄の損傷部位が明らかになれば診断がつきます。

 

脊髄損傷に対するリハビリテーション

脊髄損傷では、重度の運動麻痺・感覚障害を呈し、一度損傷したら元に戻らないとされています。

リハビリテーションでは、残存した機能を活かし、できる事を増やしていき、日常生活への復帰を目指します。

また、不全麻痺では、運動・感覚の回復の見込みがあり、予後以上の生活を送れる可能性があります。

脊髄損傷を受傷する者は、若い方も少なくなく、以前との生活との乖離に向き合い、対応していかなければなりません。

 

診断の重要性

脊髄損傷は、運動麻痺・感覚障害だけでなく、自律神経のコントロールも失うため、自律神経症状も呈します。

臨床的に重要視されるのは、運動麻痺と感覚障害であり、その正確な診断は、医学的リハに必要不可欠です。

リハにおける頸髄・脊髄損傷における障害髄節の指標は、健全に機能の残存する最下限髄節を表現するのが一般的です。

残存する髄節によって、機能予後を推定する事ができ、それに応じてリハビリを進めていきます。

 

・頸・脊髄損傷の残存高位と可能な日常生活動作

C2-C3

主な筋肉:胸鎖乳突筋

運動機能:頭部の前屈回転

日常生活:全介助

自助具など:人工呼吸器管理、電動車いす(下顎などでの操作)

C4

主な筋肉:横隔膜・僧帽筋

運動機能:頭頸部の運動・肩甲骨の挙上

日常生活:全介助 

自助具など:電動車いす・環境制御装置・リフター

C5

主な筋肉:三角筋・上腕二頭筋 

運動機能:肩関節運動・肘関節屈伸、回外

日常生活:BFO・装具と自助具による食事動作、整容の一部(歯磨き・髪をとく)、その他は介助

自助具など:平地は車いす、その他は電動車いす

C6

主な筋肉:大胸筋・橈側手根伸筋 

運動機能:肩関節内転・手関節背屈

日常生活:移乗動作(前後)可能、車いす駆動、ベッド上での寝返り、上半身の更衣

自助具など:テノデーシススプリント

C7

主な筋肉:上腕三頭筋・橈側手根屈筋 

運動機能:肘関節伸展・手関節掌屈

日常生活:床上・移乗自立、更衣動作自立、自動車運転可能

C8-T1

主な筋肉:手内在筋 

運動機能:指の屈曲 

日常生活:車いす上ADL自立

T6

主な筋肉:上部肋間筋・上部背筋 

運動機能:体幹の前後屈 

日常生活:実用的車いす移動

自助具など:骨盤帯付き長下肢装具と松葉杖で歩行可能

T12

主な筋肉:腹筋 

運動機能:骨盤の引き上げ 

日常生活:実用的車いす移動

自助具など:長下肢装具と松葉杖で歩行可能

L4
主な筋肉:大腿四頭筋 

運動機能:膝関節伸展

日常生活:歩行可能

自助具など:短下肢装具・杖

 

病型分類とリハビリテーション

脊髄損傷の病型分類は、横断型・中心性脊髄型・ブラウンセカール型・前脊髄動脈症候群型など様々です。

受傷後の麻痺は流動的で、特に不全麻痺では時間ごとに症状が変化します。

したがって、神経学的所見は経過を追いながら、頻回に観察する必要があります。

また、病型によって特徴があり、それに対してのリハビリテーションの進め方も異なってきます。

①高齢者の不全麻痺のほとんどは中心型であり、運動麻痺と温痛覚障害の左右差が混在しています。

この場合は、徹底した残存筋の筋力強化を行えば、境界域麻痺筋筋力の劇的な改善を図れる可能性があります。

②頸髄不全麻痺で痺れを強く訴える場合、両下肢装具装着での歩行訓練や器具を活用した上肢残存筋筋力強化を徹底すれば、かなりの麻痺改善が望めます。

③50代以前の腰椎損傷による対麻痺の場合、脊髄損傷・円錐部損傷・馬尾損傷のいずれかを見極める必要があります。

→脊髄損傷であれば、肛門周囲の感覚が予後予測のポイント。

また、大腿四頭筋の随意運動が可能なら、短下肢装具使用での実用的歩行をゴールにできます。

→円錐損傷の場合、まだらな筋力残存があり、筋力強化にはきめ細かさが必要です。

→馬尾損傷の場合、予後予測は難しいですが、完全麻痺であっても、年単位で改善する望みがあります。

④膀胱直腸障害が、生命予後とADL障害を決める大きな因子であるため、早期に膀胱造影による評価が必要です。

 

障害像と対策

・運動障害

脊髄に外傷やその他の原因により横断性損傷を受けると、損傷髄節以下の全反射が消失します。

この時期(脊髄ショック期)の運動麻痺は恒久的には続くわけではありません。

一般的に、6週は神経学的に回復が望まれ、不全損傷の場合はそれ以上の期間で回復をみることもあります。

高齢者の頸髄損傷は下肢よりも上肢に重い中心型麻痺がほとんどであり、運動麻痺の改善も下肢ではかなり望みがあります。

しかし、痙性が強くなる事が多く、ADLの阻害因子となってしまうこともしばしばあります。

だが、その残存機能を鍛え上げなければせっかくの麻痺改善も臨床的な意味をなくしてしまうため、痙性に対する対策を行いつつ、残像機能を徹底して鍛えましょう。

・感覚障害

外傷による完全麻痺では、急性期において損傷髄節以下の表在・深部感覚が脱失します。

急性期を過ぎると、浮腫の改善等により、感覚障害が改善する事もありますが、かえってしびれ感や痛みを引き起こし、リハビリ遂行の障害となる場合があります。

この場合は、ステロイドや神経障害性疼痛治療薬などの薬物療法を検討していきましょう。

 

・自律神経障害

脊髄損傷における自律神経障害の症状は多様で、1つ1つ解説するのは難しいです。

脊髄損傷における自律神経障害の特徴を理解し、医学書等に記載されている基本を踏まえた上で、対応していきましょう。

特徴的な症状としては、排尿障害・消化器症状・褥瘡・体温調節障害・低血圧・自律神経過反射・起立性低血圧・腎機能、体液調節障害・性機能障害などがあります。

・呼吸障害

C1-4の損傷では、呼吸障害を呈する事が多いです。

C1-2障害では、横隔神経麻痺による横隔膜の機能不全により、自発呼吸ができず人工呼吸器または横隔神経ペーシングなど、呼吸補助装置を避ける事ができません。

C4損傷では、横隔膜呼吸は可能ですが、肋間筋は麻痺を呈しているため、肺活量・最大換気量は低下し、拘束性換気障害の状態となってしまいます。

そのため、早期より安静臥床を避け、肺炎予防に努めなければなりません。

それに加え、排痰訓練や体位変換、呼吸補助筋の強化や呼吸関連筋の拘縮予防も、しっかり行っていく必要があります。

 

さいごに

脊髄損傷に対するリハビリテーションの研究は多くあり、ある程度予後予測が可能となっています。

症例によっては、予後以上の改善をみせるため、残存機能を活かしたリハビリテーションを行い、患者様の人生を狭めるようなリハビリテーションを行わないよう、日々の勉学・臨床に励んでいきましょう。

 

参考文献

標準理学療法学 解剖学

日本整形外科学会 脊髄損傷

脊髄損傷に対するリハビリテーション

椎間関節性腰痛の発生メカニズムと治療

はじめに

『腰痛』を持った患者さんに出会ったことがない理学療法士はいないと思います。
厚生労働省のデータによると腰痛は日本人の自覚症状としてNo1の症状であり、生活スタイルの変化などで今後も腰痛に悩む人は増加することが予測されます。

その一方治療となると、80%以上は原因のはっきりしないいわゆる『非特異性腰痛』であることが分かってきており、残り20%の特異性腰痛との鑑別や、心因性の可能性も考慮しなければいけないなど治療にあたって理学療法士を困らせます。

今回はそんな腰痛の原因の一つと言われる『椎間関節性腰痛』についてその基本的な部分をご紹介していきます。疾患の特徴や症状を理解することによって腰痛の評価に活かしていきましょう。

 

椎間関節の解剖学や神経支配

①関節の形状

各椎骨の上関節突起と下関節突起で構成される滑膜関節で、関節面は硝子軟骨よりなり滑膜と関節包に包まれています。

また部位によっては脂肪組織が関節包を突き抜けて存在します。

 

②神経支配

椎間関節は脊髄神経後枝の内側枝により支配されています。

後枝は横突起の背側に出た後で内側枝と外側枝に分かれます。

それぞれ外側枝は幼鳥六筋へ、内側枝は隣接する椎間関節包の下部、多裂筋、そして椎間関節包の上部へと向かいます。

つまり、後枝の内側枝は同一レベル、及び一つ下のレベルの椎間関節を支配しているということになります。

 

また椎間関節と周辺組織には感覚受容器が豊富にあることが分かっており、特に侵害受容器の割合も多いことから神経学的にも痛みを感じやすい、発生源になりやすい関節であることが分かります。

 

椎間関節の機能、バイオメカニクス

腰椎は椎体、椎間板、椎間関節と靭帯で構成されていますが、椎体と椎間板が荷重を支える機能として特化しているのに対し、椎間関節は靭帯とともに腰椎の過度な動きを制限するためのストッパーとしての役割を果たしています。

またもう一つ重要なことは椎間関節が荷重関節であるということです。研究によると椎間関節は脊柱事態にかかる荷重の16%程度を受ける役割を担っています。

残りの84%は椎体及び椎間が受けているといわれています。

軸方向の負荷がかかった時、下関節突起を通して椎弓へと伝わり、この際に関節包下部は下関節突起と追及の間にインピンジされることが確認されています。

 

腰椎伸展時には下関節突起下端部が下位椎弓に接触し、関節包の上方部に張力が加わります。一方腰椎屈曲時は、伸展時のような関節包の高い緊張はおこらないとされています。

 

回旋に関しては、関節面のほとんどが全体に接触しているため、抵抗力は大きくほとんど動きません。

 

椎間関節性腰痛の発生メカニズム

①急性疼痛

神経の部分でもご説明したように椎間関節とその周辺組織は侵害受容器や神経線維は豊富に存在しています。

そこに不自然な姿勢などが原因で機械的なストレスが加わると、侵害受容器が興奮し痛みがでると考えられます。

特に腰椎過伸展時は下関節突起と椎弓の間で強いストレスが加わる為、痛みを発生しやすいと考えられています。

 

このような機械的ストレスは軟部組織の付着部周囲に牽引ストレスをかけ、その組織が炎症すれば痛みが引き起こされますので、どれが慢性の腰痛につながると考えられます。

 

②慢性疼痛

椎間関節の炎症により痛みが持続的に発生している状態です。

実際に椎間関節へ炎症性の物質を投与した実験では感覚受容器の感受性の亢進や受容器の痛みの閾値を下げることによって痛みに過剰に反応しやすくなる可能性が実験で示されています。

 

椎間関節性腰痛の診断

椎間関節性腰痛の難しいところは『はっきりと診断しづらい』というところにあります。

椎間関節性の腰痛では特異的な画像診断はないことも理由の一つです。

 

①臨床症状

腰痛の中でも椎間関節腰痛の評価で重要な臨床所見として

①神経症状を伴わない腰痛

②腰部の伸展による疼痛の憎悪の為に後屈制限がある

③椎間関節部の圧痛

④疼痛による筋力(出力)低下は合っても脱力による筋力低下は見られない

⑤基本的に片側性の痛みの訴えがある。

などが挙げられます。

 

ただし、統計学的に優位な臨床所見についての報告はあまりないのが現状で、いまだ不明の部分が多いといえますね。

 

②椎間関節・腰神経後枝内側枝ブロック

この後に出てくる治療としても用いられる手段ですが、直接疑われる椎間関節ブロックや腰神経後枝内側枝ブロックを行うことは診断上でも非常に重要です。

 

椎間関節性腰痛の治療

①保存療法

安静、薬物療法、生活指導や運動療法など様々で、ほとんどの椎間関節性の腰痛は保存療法が選択されます。

この中には理学療法士によるリハビリテーションも含まれますし、運動指導では重い荷物の持ち方や、腰椎の過伸展に代表される不良姿勢での日常生活を指導することも重要です。

 

②ブロック

保存療法が一般的な腰痛治療とあまり手段として変わりないのに対して、ブロック治療は診断の部分でも述べたように、本当に腰痛の原因が椎間関節にあるのかを確認する為にも有用とされています。

方法としては椎間関節に対してリドカインを注入して行うものと、M-A溝と呼ばれる乳様突起と副突起の間の溝をターゲットに行う腰神経後枝内側枝ブロックというものがあります。

 

③手術

以前は椎間関節固定術という術式が選択される場合があったようです。

ただし最近においては椎間関節性腰痛が疑われる場合、外科的な手術をする症例はまれでほとんど行われていないようです。

 

慢性の腰痛に対してブロック治療の結果、椎間関節、腰神経後枝内側枝ブロックが一時的に有効であれば、経皮的電気焼灼術が検討される場合があります。

 

経皮的電気焼灼術とは腰神経後枝内側枝ブロックとおなじM-A溝に対し傍脊柱起立筋をモニタリングしながら電気刺激を加えて焼灼する方法です。

 

椎間関節性腰痛のリハビリテーション

① 不良姿勢の改善

前述のように、腰椎椎間関節の痛みは関節にかかる機械的ストレスや周辺組織のインピンジメント原因で起こります。

多くの場合は腰椎過伸展の際に痛みを発生させることが多く、方向性としてはきれいに体幹の伸展が出せる機能づくりを行っていく必要が有ります。

後屈動作においては股関節、骨盤、腰椎の3つの機能が正常に働いていることが重要で、たとえば股関節の伸展がうまくいかない場合は、腰椎が可動域を確保する為に過伸展することが考えられます。

 

このような姿勢を評価し、腹筋など細かい部分のアプローチをすすめていきましょう。

 

このように日常生活上での痛みを緩和する為に腰椎だけではなく全身を見る視点を持って改善を図っていくことが非常に重要です。

 

② 椎間関節のモビライゼーション

椎間関節を対象とした手技でモビライゼーションがあります。

側臥位にて上位と下位の棘突起を操作し椎間関節のモビライゼーションを行うことで多裂筋の収縮を促します。

多裂筋は椎間関節の周辺に付着する組織でしっかりと収縮していれば椎間関節へのインピンジメントを防ぐ役割があります。

 

③ 動作、生活指導

普段の痛みについてしっかりと聴取し、運動や動作、生活指導を行う必要があります。
そもそも不良姿勢により椎間関節に過度のストレスがかかったことが原因なので、普段の仕事や家事の場面で不良姿勢に陥っている場面があることが多いです。

具体的には重いものの持ち方(腰痛を過伸展しない)などその人に合わせた動きを指導してあげましょう。

 

さいごに

いかがだったでしょうか。まだまだ真相が分かっていない椎間関節性腰痛ですが、重要なのは冒頭でもご説明したように症状や所見を加味したうえで評価をしていくことです。

重篤な腰痛(レッドフラッグ)を見逃さない為に、患者様への治療成果を少しでも上げていけるように学習を進めていきましょう。


【参考文献】
1. 山下敏彦、椎間関節性腰痛の基礎、日本腰痛会誌、13(1):24-30、2017

2. 寒竹司、田口敏彦、椎間関節の痛み、Mb Orthop、26(12):21-24、2013

3. 田口敏彦、椎間関節由来の腰痛、脊椎脊髄、25(4):311-314、2012

4. 山下敏彦、椎間関節性腰痛の基礎、脊椎脊髄、13(6):432-438、2000

腱板断裂の手術と術後リハビリテーション

はじめに

肩関節は、人体の関節の中でも、自由度が高く複雑な関節です。そのため、私たちセラピストはその痛みや可動域制限に悩まされることが多いと思われます。肩関節疾患の中でも、厄介なのが腱板断裂ではないでしょうか。日常生活活動に大きな影響を与え、改善には数ヶ月を要します。今回は腱板断裂のリハビリテーションについて、お話していきます。

 

概要

腱板断裂について

回旋筋である4つの筋のいずれかが断裂した状態を指し、40歳以上、特に男性(男62%、女38%)の発症が多く、右肩に好発します。発症年齢のピークは60代です。

 

腱板とは

腱板とは、肩周囲を走行するインナーの筋であり、主に棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋で構成されています。主な役割としては、肩関節窩に対し上腕骨頭を求心性に保ちながら、回転運動を可能にしています。

 

原因と病態

背景には、腱板が骨と骨に挟まれているという解剖学的関係と、腱板の老朽があり、中年以降に発症しやすい疾患です。明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、生活動作の中で腱板断裂が生じます。

 

診断

腱板断裂の診断には、肩の疼痛・拘縮の有無、挙上時の軋轢音の有無、X線画像やMRIなど総合的な評価を実施します。リハビリでも整形外科テストを行い、評価を行う事ができます。具体的な評価方法としては、Hawkinsテスト・外転テスト・empty canテスト・full canテスト・drop armテスト・肩関節外旋テストがあります。
評価の概要を簡単にまとめておきます。
(1)Hawkinsテスト
インピンジメントの代表的な評価。肩を前方に挙げた状態で、肘を90°に曲げ、肩を回旋させ手を身体の内側に持って行く。疼痛が出現したら、陽性。
上腕骨頭が肩峰下アーチに上手く滑り込む事ができず、摩擦や衝突するかを評価できます。
(2)外転テスト
肩関節を外転させていき、疼痛または外転仕切れなかったら、陽性。
腱板筋の中でも、棘上筋・棘下筋は外転に作用します。それらの筋に断裂・損傷があるかを評価できます。
(3)empty canテスト
両上肢をやや外転させ、母指を下方に向け手のひらが外になるような状態で、下方に向かって抵抗を加える。疼痛が生じたら陽性。
このテストでは棘下筋に対しストレスをかけ、疼痛を誘発させます。棘下筋の異常を評価する事が可能です。
(4)full canテスト
empty canテストとは逆に、母指を上方に向けた状態で、下方に向かって抵抗を加える。疼痛が生じたら、陽性。
このテストでは、棘上筋に対しストレスをかけ、疼痛を誘発させます。棘上筋の異常を評価する事が可能です。
(5)drop armテスト
上肢を他動的に外転させ、自動的にゆっくりと下げていく。疼痛が生じるか、90°程度から保持できず落下してしまうと、陽性。
このテストでは、腱板の役割である、上腕骨を求心位保つ事ができず不安定となり、落下や、疼痛を誘発させ、腱板機能の異常を評価する事が可能です。
(6)肩関節外旋テスト
肩関節外旋筋の筋力テストを両側同時に行い、明らかな左右差が生じれば陽性。
他にも、lift offテストや内旋筋テストなどがあります。
肩関節疾患全般に使用する事が可能で、腱板断裂の診断でない方でも、上記の評価等を実施し、疑う事が可能になると良いです。

 

治療

腱板断裂の治療としては、保存療法と手術療法があります。

保存療法

腱板断裂は基本、保存療法が第一選択となります。炎症に対し、ステロイド剤等を使用し、症状を緩和させます。断裂部位が自然に治癒する事はありませんが、リハビリにより肩周囲の筋肉を訓練し、肩の挙上が可能となります。

 

手術療法

保存療法で通院治療しても、痛みの緩和や肩挙上時の引っかかりがとれない場合や肩に力が入らず挙上できない場合は、手術療法の適応となります。手術には直視下手術と内視鏡使用した鏡視下手術があります。鏡視下手術の方が侵襲が少なく、負担が少なくなります。手術後は、装具を使用し4週間ほど固定します。

 

腱板断裂に対するリハビリテーション

治療として、保存療法・手術療法のどちらもリハビリは必要不可欠です。しかし、リハビリの進め方は異なります。特に、手術療法では、その後のリハビリの進め方にはプロトコールが存在し、基本的には時期に応じて、プロトコールに従いリハビリを進めていく形になります。

 

手術後のリハビリテーション

通常、手術後は外転装具を使用し、固定します。固定する肢位としては、肩関節屈曲・外転約45°に設定します。
①固定期 術後~3週目
術後3週目あたりまでは、固定期とよばれ、常に装具を装着し固定している期間です。この時期における運動療法の内容としては、頸部・肩甲帯のスパズム除去、他動運動、肩以外の各関節における自動運動が主です。日常生活では、良肢位保持やADL指導を行います。
②移行期 3週目~5週目
3週目からは、移行期にあたり積極的かつ慎重に自動運動を行っていく時期になります。運動療法の内容としては、肩関節の自動運動が主です。まずは、背臥位にて重力の影響をなるべく除いた状態からスタートし、等尺性時の抵抗により、座位・立位と重力下に置き、負荷を少しずつ与えていきます。
③機能訓練期 5週目~12週目
5週目~12週目は、機能訓練期にあたり、自動運動から抵抗運動へと負荷を上げ、かつ機能に即した訓練を積極的に行っていく時期になります。運動療法の内容としては、腱板機能訓練(抵抗運動)、肩・肩甲骨周囲の抵抗運動、肩関節複合運動(抵抗運動)が主です。日常生活では、結髪・結帯動作や軽作業を指導していきます。
④アスレティックリハビリ期 12週~10ヶ月
12週から10ヶ月はアスレティックリハビリ期にあたり、主に職場復帰や競技復帰、競技完全復活していく時期になります。運動療法の内容としては、オーバーヘッド動作が主です。

 

保存療法時のリハビリテーション

保存療法時のリハビリとしては、主に断裂した筋以外で、肩を動かせるように訓練をしていきます。炎症や疼痛の有無により、訓練内容は異なります。
①炎症期
断裂直後は、2~3週間程度炎症が持続し、わずかな動作でも疼痛を誘発してしまいます。そのため、ステロイド剤などにより炎症・疼痛を緩和させ、訓練を行います。この時期における運動療法の内容としては、他動運動、その他関節の自動運動、頸部・肩甲帯のリラクゼーションが主です。他動運動では基本、背臥位にて行い愛護的に動かし、拘縮予防を図ります。
②拘縮期
炎症が治まると、拘縮期に移行します。見極めとしては、安静時痛と夜間時痛を目安にしていきましょう。この時期の運動療法としては、自動運動、抵抗運動、機能訓練が主となります。腱板断裂で一番多いのは棘上筋です。これを代償するため棘下筋が過緊張となりやすいため、緊張緩和のためのリラクゼーションは欠かせません。また、棘下筋の過緊張は、肩関節外旋の可動域制限を来しやすく、肩関節挙上時の前腕の回外を制限され、インピンジメントを引き起こしやすいため、注意が必要です。
③機能訓練期
この時期になると、ある程度肩関節は挙上できる範囲が広がっており、機能訓練を中心に実施していきます。運動療法の内容としては、肩関節複合運動、結髪・結帯動作、ADL動作指導が主となります。複合運動としては、結髪動作に必要な、肩関節屈曲・外転・外旋、肩甲骨の上方回旋と内転、結帯動作に必要な肩関節伸展・内転・内旋、肩甲骨下方回旋と外転を意識して積極的に行っていきましょう。

 

おわりに

肩関節は非常に複雑な関節であり、よく我々セラピストを悩ませる事があります。焦って無理な運動を行い、セラピスト自身が新たな炎症や疼痛、可動域制限を作らないよう、じっくり訓練を積み重ねていく事が重要です。

骨粗鬆症の原因と治療・予防

みなさんは『いつのまにか骨折』という名前を聞いたことありますか?骨折する時というのは転んだり転落したりと何かしら受傷機転があるのですが、『いつのまにか骨折』とはそういう受傷機転がないため、本人もわからずに骨折している事をいいます。この背景には骨粗鬆症という骨が弱くなる病気が大きく影響しています。今回は骨粗鬆症について説明していきます。

 

骨粗鬆症とは

骨粗鬆症は『単位面積当たりの骨量が低下し、そのために骨が物理的支持体となりえず、軽度の外力でも骨折を起こす危険性が高まっている状態』と定義されています。
簡単に言うと、骨の強度が低下して骨折するリスクが高くなる病気ということです。そもそも人の骨量は20歳ごろに最大となり、40歳を超えたころから加齢とともに徐々に減少します。骨粗鬆症は病的に骨量が減少し、骨がスカスカになってちょっとしたことで骨折してしまうようになります。

 

骨粗鬆症になる原因 

骨粗鬆症の原因は大きく外的因子と内的因子があります。
外的因子には栄養不足、運動不足、生活習慣が挙げられます。具体的にはカルシウムの摂取不足やリンの過剰摂取、低活動や不動、日照や嗜好品などがあります。
内的因子はホルモンバランスの乱れ、加齢による吸収力の低下や生理的な骨減少、遺伝などがあります。特に、女性の場合は閉経後のホルモンバランスの乱れにより急激に骨量の減少が進むため、注意が必要となります。内的因子は日常生活で変える事はできませんが、外的因子は日常生活で調整が可能になります。

 

骨粗鬆症の検査

骨粗鬆症の検査にはレントゲン検査、骨密度検査、血液検査があります。
レントゲン検査では腰椎(腰の背骨)のレントゲンを撮ります。骨粗鬆症の骨は骨の中に鬆(す)が入ったようにスカスカになって写ります。
骨密度検査は、骨の密度を測ります。骨の強さを見る指標の一つで、若い人の骨密度の平均値と比べて自分の骨密度が何%であるかを検査します。80%以上で正常、80~70%で骨量減少、70%未満で骨粗鬆症と診断されます。
血液検査では骨代謝マーカーというものを検査します。これで骨の新陳代謝の速度を調べることができます。骨は元々骨形成(骨を作る骨吸収(骨を壊すがバランスよく行われていて正常の骨を作っています。骨代謝マーカーは骨吸収を示すため高値になると骨吸収により骨密度の低下が早く起こってきます。

 

骨粗鬆症の治療・予防

骨粗鬆症の治療の目的は、骨密度の低下をできるだけ防ぎ骨折しないようにすることです。治療には食事療法、運動療法、薬物療法があります。
食事療法では骨密度を低下させないようにカルシウム、ビタミンDなどを摂取します。カルシウムは吸収率が低い成分なのですが、ビタミンDを同時に摂取することで腸でのカルシウムの吸収率がよくなります。また日光に当たるだけでビタミンDは体内で生成されます。30分ほどで十分なので少しずつ外出して日光に当たる習慣をつけましょう。
リンは骨吸収を促進するように働くため過剰の摂取はおすすめできません。スナック菓子やインスタントラーメンはできるだけ控えましょう。

運動療法では軽度の骨粗鬆症の方には有酸素運動が勧められています。骨は負荷がかかると強くなる性質を持っています。普段から散歩や階段の昇り降りをすることはとても大事になります。症状が強い場合は運動することにリスクがあるのでその場合は医師に相談しましょう。
薬物療法では現在、たくさんの骨粗鬆症の治療薬が出てきています。1人1人の症状や社会背景に応じて選択することができます。最近では骨を強くする効果を期待できる薬も登場してきています。しかし安全に効果を出すためには薬の用法を守らないといけません。週に1回の注射や1日1回の注射などがあり、その薬によって摂取するタイミングが異なるので医師や薬剤師の指示をよく確認しましょう。
また骨粗鬆症の薬は1年2年と長期間の治療で効果がでてくるものです。治療を始めても途中でやめてしまうと意味のないことになってしまいます。自己判断でやめたりせず、根気よく治療を続けることが大事です。

 

まとめ

今回は骨粗鬆症について説明してきました。骨粗鬆症になると骨折するリスクが高くなります。予防・治療には食事、薬、運動があります。食事や運動は日常生活の中から行っていくことができます。軽い運動カルシウムの摂取を心がけましょう。
最後に、骨粗鬆症の予防をしていくためにはまず自分自身の現在の骨密度を知るところから始まります。そのため、定期的な骨密度検査を行いましょう。特に40歳以降の女性の方は半年から1年に1回は定期検査を受けることをお勧めします

五十肩に対する体操と治し方

中高年になると増えてくる肩の痛み。

五十肩ははっきりした原因は分かっていませんが、痛くて動かせなくて困っている方は多くいらっしゃいます。

今回は中高年の肩の悩み、五十肩について説明していきます。

 

五十肩とは

五十肩は正式には肩関節周囲炎凍結肩と呼ばれています。

五十肩の由来は40~60歳代に発症し、肩関節周囲の痛みと肩の可動域制限が起こることからきています。

まったく誘因なく痛くなりだしたり、ちょっと動かした後から痛くなったり、外傷後にでたりと発症機転は様々なものがあります。

 

五十肩の症状

40~60歳代に多く、肩周囲の痛みと可動域が制限されます。

最初はちょっと痛いという程度から始まりますが、徐々に激しい痛みとなっていきます。

動かすときだけでなく安静にしている時や夜間にも痛みが出やすいことも特徴です。

肩だけでなく首や腕にも痛みが生じることもあります

肩の動きも制限され、特に回旋動作が強く障害されます。

そのため手を頭の上に持っていく動作(結髪)や腰に手を回す動作(結帯)ができなくなるのが特徴です。

 

予後は一般的には良好で、数週間から半年、長くても1年半程で自然に痛みは軽減し動かしやすくなります。

しかし、肩の動きが制限されたままになってしまう事が多いため適切な治療を受けることが必要になります。

 

五十肩の原因

五十肩になる原因はまだ解明されていません

加齢とともに肩の関節や周りの筋肉などが固くなったり傷んだりすることで炎症や痛みを引き起こすと考えられています。

また糖尿病を患っている人やストレスも影響していると言われています。

 

治療

五十肩の治療は肩周囲の痛みを和らげて肩の可動域を改善していくことが目的になります。

投薬などの薬物療法運動療法で改善することが多く、手術になることはほとんどありません。

五十肩はその時期によって急性期と慢性期(凍結期)と回復期があり、時期によって治療方針が変わってきます。

 

急性期は肩に激しい痛みがあり、動かすこともできなくなります。

そんな時期に無理をして肩を動かすのは逆効果になります。

急性期は安静と炎症を抑えることが第1です。

長時間の運動やストレッチは避けて、痛み止めの注射や薬が中心になります。

痛みが落ち着いた時には肩を動かしていきますが、痛みのない範囲でゆっくりと動かしていきます。

 

慢性期は発症から数週間たって痛みが落ち着いてきた時期です。

肩も動かせるようになり日常生活でも使えるようになってきます。

しかし肩の可動域には制限があり、最終域で痛みが出てきます。

この時期になると初期の炎症も収まっているためストレッチや肩を動かしていき可動域を獲得していきます。

温熱療法も有効で、少しぬるめのお風呂に使って肩を温めることも有効です。

 

回復期は痛みが自然と取れていき、可動域も改善していく時期のことを言います。

この時期になるとさらに積極的にストレッチをしていき可動域の改善を図ります。

五十肩の治療期間は長く、数か月から1年以上かかることもあり根気よく続けていくことが重要になってきます。

 

生活指導

急性期は安静が第1に考えましょう。

薬の副作用などがない限り痛みを我慢せず薬を服用したほうがいいです。

急性期を過ぎて痛みが落ち着くと日常のできる範囲のことは行っていきましょう。

しかし、痛みを我慢してまでしないようにしましょう。

 

夜間痛に対しては、一枚肩にタオルを掛けて冷やさないようにしましょう。

また寝るときにバスタオルや枕を肩の下に入れて腕が体より後ろに行かないようにしましょう。

睡眠不足になると肩周囲の筋肉はどんどん固くなったりこわばったりして、より痛みが強くなってしまいます。

横になった状態では眠れない人は座ってでもいいので楽な姿勢を見つけ、少しでも睡眠をとるようにしましょう。

 

ホームエクササイズも重要になってきます。

有名なのでアイロン体操(コッドマン体操)や棒体操といわれるものがあります。

少しずつ体操を行っていきましょう。

 

アイロン体操
立った状態で体を前に倒して痛くない腕で机やいすを持ち、体を支えます。

痛いほうの腕に重り(アイロンや500mlのペットボトルなど)を持ちゆっくりと重りを振ります。この時、腕で振るのではなく体を揺らして腕が振られるような感覚でするといいです。

 

棒体操
棒を両手で持ちます。

両手で持ったまま、肘を伸ばした状態で上に持ち上げます。

上に挙げるだけでなく横に振ったりしても効果的です。

 

まとめ

五十肩は放っておいても痛みは徐々に軽快していきますが、それには長い期間を要し可動域に制限が残ってしまいます

五十肩の病期によってはやっていいこととダメなことがあるので、初期のうちから早めに医療機関へ受診し適切な治療を受けましょう。

温熱療法

はじめに

病院やクリニックなどで、主に疼痛の抑制や組織の粘弾性にアプローチする為に用いられるのが温熱療法です。

温熱療法は物理療法の手段の一つで、実際に実施されている物理療法の種類として最も多く用いられている手段です。

温熱療法には様々な手段があり、その一つ一つが目的とする組織や効果などに違いがあるものです。

今回はそんな温熱療法の基本をもう一度見直し、現場でのリスク管理などに活かしていきましょう。

 

温熱療法の効果と作用

温熱療法を用いることで以下のような効果が得られるとされています。

以下にその効果がどのような作用で得られるのかを踏まえて説明していきたいと思います。

温熱に関しては世の中に様々な効果がうたわれており、全て紹介しきれませんが理学療法士として患者さんに温熱療法を実施する際に関係の深い効果を4つご紹介していきます。

 

鎮痛作用

温熱療法を実施する上での目的の上位に入るのが疼痛の抑制です。

我々が学生の頃は疼痛が軽減するメカニズムとしてゲートコントロールシステムというものが教えられてきました。

ただし、鎮痛作用をもたらす機序としてはそれだけでは説明できない(それだけではない)ようで様々な説があるようです。

温熱療法による鎮痛作用に関与するメカニズムとして

・疼痛閾値の上昇

・筋スパズムの減少

・血流の改善と疼痛物質の除去

が一般的に言われています。

 

組織粘弾性への効果

温熱療法により、温度が上昇した組織は伸長性が向上することが知られています。

また、温熱療法後は神経への作用により一時的に筋緊張の緩和、筋出力の低下が起こることが報告されています。

組織の伸長性が高い状態、そして筋緊張がリラックスしている状態ですので温熱療法はしばしばストレッチの前処置として用いられます。

 

神経への効果

温熱効果により神経伝達速度は上昇します。

温熱療法は神経の作用により、疼痛の閾値(痛みを感じるライン)を上昇させるといわれています。

痛み刺激に対して疼痛を感じるレベルが上がる為、今まで感じていた痛みの刺激では閾値を下回ってしまい感じにくくなるということです。

また結果として筋収縮に大きく作用するα運動ニューロンの動きが抑制されることで筋スパズムが低下すると言われています。

 

循環への効果

温熱療法を実施することで血管は拡張作用を起こします。

血管が拡張することで血流量は増大します。

お風呂に入った後など全身レベルの話でいうと、血管拡張作用、心拍出量の増加から結果全身の血流量増加に至ります。

ただし、この効果を考えた際は注意が必要です。

心肺系のリスクを抱えている方にとってはむやみやたらに心拍出量を挙げ心負荷をかけることは避けたいところです。(心臓の悪い方を入浴させるのはリスクがあると考えると分かりやすい)

局所的なリスク管理としても動脈硬化や循環障害の強い部分への適応は状態を悪化させる可能性がありますので禁忌とされています。

 

温熱療法の種類と禁忌事項など

冒頭でもご紹介したように温熱療法には様々な手段があります。

その方法一つ一つに効果やリスクの違いがあります。

方法論の選択は以下のような基準で決まりますので、ここでは選択方法の基準と現場で見ることの多い代表的な各種温熱療法の特徴と方法、リスクの基本的な部分を見直していきましょう。

 

各種療法の選択の基準について

患者さんによってどの療法を用いるのかを選ぶ基準として代表的なものは以下の2つです。

基本的な部分ですが、非常に重要ですのでおさえておきましょう。

 

・効果を及ぼす組織の違い(深達度)

それぞれの方法には熱が伝わる深さ(深達度)が異なります。

伝導熱を使ったホットパックによる温熱の深達度は1㎝程とされており皮膚温の向上や浅層をターゲットとします。

それに対し、エネルギー変換熱で温めるマイクロ波の場合は、深達度は3~4㎝に至るとされており、より深い位置の組織である筋や軟部組織などにも効果があります。

このように患者様の温熱を加えたい組織はなんなのかによって方法の選択肢が変わります。

 

・リスク管理の違い

それぞれの方法には禁忌事項と呼ばれる絶対に行ってはいけない対象者や、注意事項が存在します。

例えばマイクロ波療法においては『金属部分への実施』が禁忌事項とされていますので人工関節が入っている患者さんはNGとなります。

患者さんの既往歴や患部の状態によって避けるべき手段があるのは理解しておかなければなりません。

最もポピュラーなホットパックにも禁忌事項はありますので必ず理解した上で温熱療法を実施しましょう。

 

ホットパック

①概要

ホットパックはシリカゲルという素材を布で包んだものをハイドロコレーターという機械で熱して使うものです。

その温度は約80℃ほどの温度で使用するのが一般的です。

タオルやビニールで包んだものを使用して患部を温めます。

 

②実施方法

湿熱を使って温める場合はホットパックをそのままタオルで包み実施します。

湿熱はのちにご紹介する乾熱に比べ温度の上昇速度は速いものの、終了後は蒸気により温度が下がりやすいといわれています。

一方乾熱はビニールに包んでから温める為、衣服をぬらさず実施することができます。

薬局などでは市販のもの(電子レンジで温めるタイプのもの)も販売されており、自宅で使う方も増えてきました。

 

③対象とする組織と効果

深達度の部分でも触れたようにホットパックの深達度は1㎝程度と言われており、表皮や浅層の筋には有効です。

一方深部にある筋肉をターゲットにするには適していないと言えます。

一般的には腰部や肩甲帯などに使用されます。

 

④禁忌事項

急性期の炎症(強い腫脹など)や悪性腫瘍、感覚障害、循環障害や皮膚疾患となります。

 

パラフィン

①概要

ろうそくの『ろう』のような液体を50℃~55℃に専用の機械で温め、その中に患部を浸すことで温熱療法を行うものです。

パラフィン自体は熱伝導が少ないため、皮膚自体が熱さを感じにくく、感覚としては生暖かい感じになります。

パラフィンは液体に患部を入れるため、湿熱と思われがちですがパラフィン自体に水分はないため乾熱に分類されます。

 

②実施方法

手を温熱する場合、一般的にはパラフィンの中に手を浸し固まってから何度かパラフィンの中に繰り返し手を浸します。

これを繰り返すことでパラフィンの層を何重にも重ね手袋のような状態を作ります。

注意点としては1回目、2回目と浸す深さを徐々に浅くしていくことです。

この作業が完成したらビニール、タオルで巻き保温を行い20~30分間温めます。

 

③対象とする組織と効果

効果や対象組織としてホットパックと大きな差はありませんが、ホットパックは患部を広く温めるメリットがある分小さな部位や凹凸のある部分への温熱は適していません。

パラフィンは特に手指や足のような細かい部分や凹凸のある部分にまんべんなく保温効果をもたらすため、ホットパックと使い分けを行うことができます。

 

④禁忌事項

パラフィンの禁忌事項はホットパックと同様です。

 

超極短波(マイクロウェーブ)

①概要

電磁波をあてることで患部を温熱する方法で、電子レンジとほぼ同じ理論が使われています。(2.45GHz、12.5㎝)

マイクロウェーブは患部の組織間で振動を起こし、摩擦熱が生じることで温める仕組みになっており、より深部の組織を温めるのに効果があります。

機械をの扱いも比較的簡単なため、実際の現場でも使用されることが多い方法です。

 

②対象とする組織と効果

ホットパックやパラフィンと比べて3~4㎝の深達度を持ち、深層の組織を温熱することができます。

 

③禁忌事項

ホットパックなどと禁忌事項が異なりますので注意しましょう。

急性炎症や悪性腫瘍、感覚が低下している部分への実施は同じく禁忌ですが。

加えて湿布や絆創膏のある位置や妊婦の腹部、小児の骨端部位や生理中の女性の腰部、腹部への実施、眼球や睾丸、金属への実施がありますので注意しましょう。

特に金属に関してはネックレスやアクセサリー、衣服の装飾など体の外部、人工関節など生体内に金属が入っていないかをしっかりと確認して実施することを意識しましょう。

 

最後に

このように温熱療法は正しい手段で実施すれば多くの効果がのぞめる有効的な手段です。

しかし実際の現場ではリハビリを行う前の前処置としていわばルーティンのように温熱療法を行うところもあるようです。

患者さんに直接外部的な刺激を加える温熱療法は選択を間違えると大きな事故や患者さんに不快な思いをさせる原因にもなりかねません。

効果的だからこそ、リスクもあることをしっかりと意識し患者さんに最適な方法を選択する事が重要ですね。

大腿骨頸部骨折の概要と治療

一般の方はこちらをご覧ください

はじめに

2025年、団塊の世代が75歳に達する時期をピークに今後も高齢者の増加が問題となってくる我が国ですが、高齢者の増加に伴い身体機能の低下に伴う転倒による骨折も大きな問題の一つになってくるでしょう。

転倒は高齢者の身体機能に直接障害を及ぼすだけでなく、心理面にも大きな影響を与える問題です。

 

今回は転倒によって発生しやすいとされる4大骨折と呼ばれる中でも特に多い、「大腿骨頸部骨折」に注目し、基礎的な知識や実際に行われている治療や手術に関してまとめていきたい思います。

 

社会問題にもなりうる、高齢者の転倒とともに増える疾患

 疾患の概要(原因や疫学など)

 ・大腿骨頸部骨折とは

そもそも大腿骨頸部骨折とは大腿骨近位部に発生する「大腿骨内側骨折(関節包内)」「大腿骨頸部外側骨折(関節包外)」骨折に分類されその総称として使われている名称です。

実際の治療方針や予後は関節包内の骨折か、関節包外の骨折かで異なってきますが、地域の介護の現場など、医療職以外のスタッフが多くかかわる現場では特に分類されず、「大腿骨頸部骨折」とひとまとめにされることがほとんどです。

文献などによっても呼称が異なる為、ガイドラインでは内側骨折を『大腿骨頸部骨折』、外側骨折を『大腿骨転子部骨折』という名称に統一しています。

今回の記事では、日常生活上で大きな問題に発展しやすい『大腿骨頸部骨折(内側)』について主にご説明していきます。

 

・大腿骨頸部骨折の原因と危険因子

2010年には約18万人,2020年には約25万人,2030年には約30万人にも上るとされている大腿骨頸部骨折ですが、一番多い原因は転倒によるものです。

特に大腿骨の頸部は構造的にくびれたようになっている為骨折しやすい場所であるにも関わらず、ひとたび骨折してしまうと仮骨形成が起こりにくい、血行が悪い部分である為程度によりますが、手術療法が適応されることが多い疾患です。

 

大腿骨頸部骨折の分類(garden分類)

 骨折の程度、年齢や既往歴を加味し、治療方針を立てる上で様々な分類があります。

大腿骨頸部骨折の分類は骨頭の転位の程度によって4つのステージに分類したGarden Stageが一般的です。

StageⅠ、Ⅱは転位のない状態、Ⅲ・Ⅳは転位のある状態です。

 

・StageⅠ:不完全骨折、且つ転位のない状態

 

・StageⅡ:完全骨折であるが転位はない状態。遠位骨片と近位骨片の骨梁の方向性に乱れがない状態を示します。

 

・StageⅢ:転位のある完全骨折で遠位骨片と近位骨片の骨梁の方向が一致していない状態です。

 

・StageⅣ:転位が高度の完全骨折でStageⅢとの違いは臼蓋,骨頭,遠位骨片内側の主圧縮骨梁の方向が一致して,正常の方向を向いている点です。

 

ただし、実際の現場では必ずしもこの分類通りとは限らないため、治療法の選択と予後予測の指標としては転位の有無で「転位型」と「非転位型」として分けることが主流です。

 

大腿骨頸部骨折の手術について

 大腿骨頸部の治癒までの時間がかかること、治癒までの時間によって2次的な障害の影響が大きいことから、高齢者の大腿骨頸部骨折ではほとんどの場合で手術が行われます。

術式の中には股関節の脱臼などのリスクを伴うものもありますので、改めて基礎的なことを理解しておく必要が有ります。

ここでは代表的なものを紹介しますが、患者さんがどのような術式で治療を行ってきたのかは必ず確認するようにしましょう。

手術の種類には主なものとして大きく2つ。

骨折した骨頭を人工のものに入れ替えてしまう人工骨頭置換術とピンなどで骨を固定する骨接合術の2種類があります。

 

・人工骨頭置換術(BHA)

文字通り、人工の骨頭をもとの骨と入れ替える術式です。略してBHAと言われます。

チタンやコバルトクロム合金、ステンレスなどの金属素材の合金やセラミックス、ポリエチレンなどの素材でできた骨頭を骨に埋め込み固定します。

固定の方法も様々で、セメントを用いた方式やセメントを使用しないセメントレス方式など様々なものがありますので確認をしておきましょう。

メリットとして最も大きいのは術後早期に荷重が行えることです。

一方デメリットとしては一番に脱臼のリスクがあります。

BHAには後方侵入、前方侵入という2つのアプローチ方法があります。

後方侵入は梨状筋、外旋筋を切開して行われますので、骨頭が後方に飛び出し脱臼してしまうリスクがあります。

脱臼しやすい禁忌肢位は「屈曲・内転・内旋位」でこれらの複合動作が脱臼のリスクを高めます。リハビリ中にセラピストがこの方向に動かさないことはもちろんですが、これらの動作が日常生活の中では当たり前に出てきます。

床に落ちたものを拾う動作や靴を履く際など日常生活上での動きをチェックする必要が有ります。

一般的に後方侵入よりも脱臼のリスクが低いといわれていますが前方侵入の場合は「伸展・内転・外旋位」が禁忌肢位と言われています。

後方侵入の際の日常動作ほど、これらの複合動作が登場する可能性は低いですが、リスクを想定し、患者さんへの指導を行っていきましょう。

また、術後は手術に伴うリスクとして深部静脈血栓症や感染のリスクがありますので患者さんの状態を確認し、医師と連携してリハビリテーションをすすめていく必要が有ります。

 

・骨接合術

StagⅠやⅡなど比較的状態が軽い場合に適応される術式です。年齢や状態によっては軽いステージでも人工骨頭が選択される場合もあります。

 

術後リハビリテーション

 術後は早期離床がすすめられており、リハビリテーションを積極的に実施していく必要があります。主に以下のような理学療法が実施されます。

手術直後は起居動作から座位保持・移乗・立位保持ができるようすることから始め、荷重をかけたリハビリテーションが行われていきます。

 

・筋力増強運動

また股関節周囲のアプローチは間違いなく必要ですが、反対側の下肢など他の部分の筋力が活動性の低下により低下することも防いでいく必要があります。

歩行練習や全身運動を通して術側以外の動作能力も保っていきましょう。

 

・歩行練習

通常は数日後には荷重をかけた練習を開始していきます。平行棒などを使い術後の痛みに配慮しながらも荷重をかけていきます。

恐怖感がとれ、筋出力が向上してくると歩行器や杖歩行、階段昇降などを使ってレベルを上げていきましょう。

 

・日常生活指導

全人工関節置換術(THA)を実施した患者さんに比べ脱臼のリスクは低いとは言われていますが、上記術式の部分でも触れたように特に日常生活では人工骨頭置換術を行った患者さんには脱臼の危険性があります。

日常生活での動きを確認し、動作の修正を行える部分は指導し、環境調整が必要な場合はアドバイスを行っていきましょう。

また入院時だけでなく、外来でリハビリを受けに来られる期間もあると思いますが、日常生活上でできる運動を指導することも重要です。

 

大腿骨転子部骨折について

比較的血行が良好で、予後の良い大腿骨転子部骨折に関しては治療方針が少し異なります。

転子部骨折の手術は、骨癒合が見込めるため、主に骨接合術が選択されます。

代表的な術式にはCHSやガンマネイルといったものがあります。

 

最後に

 はじめにご紹介したように高齢者の増加に伴い、今後間違いなく大腿骨頸部骨折を受傷される患者さんも増加します。

受傷直後のリハビリテーションはもちろんすでに人工関節を入れた患者さんが別の理由でリハビリを受けに来ることもあるでしょう。

そのような患者さんに適切な対応ができるように、基本的な部分を日々理解しておきましょう。