リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

アンクルウェイトは重さが変えられるものを選ぼう!筋トレの方法と効果を伝授します

トレーニング器具のコーナーに行くと、必ず見かける器具としてアンクルウェイトがあります。アンクルウェイトは500gや1kgとあらかじめ重さが決まったものが2個1セットで売られていることが多いです。しかし、アンクルウェイトは重さが変えられるものがおすすめです。今回は、重さが変えられるアンクルウェイトのメリット、筋トレでの活用方法や効果についてお伝えします。

 

アンクルウェイトの特徴や種類

アンクルウェイトは足首に巻くことができる重りです。まずは、アンクルウェイトを効果的に活用するために、商品の特徴や種類を紹介します。

 

アンクルウェイトの簡単な特徴

アンクルウェイトは足首に巻くことで、通常より足に負荷をかけながら運動をするためのトレーニング器具です。

足首に巻いてマジックバンドで固定をするため、運動をしても外れず、様々なトレーニングを行うことができます。

重錘(じゅうすい)バンドと呼ぶ場合もあり、手首につけることもあるため、リストウェイトと呼ぶこともあります。

 

アンクルウェイトの重さ

アンクルウェイトの重さは多種多様です。商品としては500gや1kgといったものがよく見かけられますが、それ以上重たいものもあります。

250gのような軽いものは手首につけることが多く、重いものだと5kgといった商品もあります。

 

重さが変えられるアンクルウェイトとは

アンクルウェイトには重さが変えられる商品があります。鉛を差し込む穴がいくつか空いており、差し込む鉛の量を変えることで、重さの調整ができるようになっています。

この「重さが変えられる」という点に非常に大きなメリットがあります。

 

重さが変えられるアンクルウェイトを選ぶべき4つの理由

様々な商品があるアンクルウェイトでも、重さが変えられるアンクルウェイトを選んだほうが良い理由を紹介します。

 

かけたい負荷に調整できる

最大のポイントが「自分がかけたい負荷に調整できる」という点です。筋力トレーニング(以下筋トレ)の原則として、ある程度鍛えたい筋肉に負荷をかける必要があります。

そのためアンクルウェイトを使って負荷をかけてトレーニングしても、負荷が常に一定であれば、筋力の増加は頭打ちになってしまいます。

また、筋力をしっかり向上させようと思ったら、徐々に重さを増やして運動をする必要があります。その点で、重さが変えられるアンクルウェイトは非常に有効な器具と言うことができます。

 

複数購入する手間がなくなる

適切な負荷をかけるために、何種類もの重さのアンクルウェイトを用意するのは大変です。そのため、鉛で簡単に重さが変えられるアンクルウェイトは、何種類も購入する

手間がいりません。

 

スペースの無駄がなくなる

トレーニング機器がたくさんあって、スペースが取られるといった経験はありませんか?アンクルウェイトのように、重さがいくつかある器具を複数そろえると、スペースを取られます。

そのため、重さが変えられるアンクルウェイトを一つ購入すれば、省スペースで済むのです。

 

他の部位でも活用できる

アンクルウェイトは足首につけるために購入した場合、手首などで使用すると、重さが重くなりすぎる可能性があります。

そこで、重さが変えられるアンクルウェイトを購入すれば、重さを軽くして他の部位で使用できるという利点があります。

実際に、筆者も足では1kgでも、手首では500gにするというように、重さを調整して使用しています。

 

アンクルウェイトを使用したトレーニングの効果

アンクルウェイトは主に下肢の筋力トレーニングで使用します。ここでは、主に高齢者を対象にした研究結果をもとに、アンクルウェイトを使用した際の効果について紹介します。

 

脚の筋力向上の効果について

体の機能が低下した高齢者に対する研究では、アンクルウェイトを使用して脚のトレーニングをした結果、脚の筋力が上がったという研究結果がいくつもあります。

筋力を向上させるには、日常生活でかかる負荷よりも高い負荷をかける必要があります。これを過負荷(かふか)の原則といいます。また、運動の負荷を少しずつあげていくことも必要です。これは、漸進性(ぜんしんせい)の原則といいます。

以上のように、筋力を向上させるためのトレーニングには原則があり、その原則を守るためには、重さの変えられるアンクルウェイトがピッタリと言えるでしょう。

 

痛みの軽減について

「最近、階段を降りるときに膝の痛みが気になる」という方は筋力トレーニングがお薦めです。膝の痛みの原因になりやすい、変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)でも、最も進められる治療の一つとして、筋力を強化する運動があります。

実際に変形性膝関節症の方に、アンクルウェイトを装着してトレーニングをした結果、膝の痛みに軽減が見られたという研究結果もあります。

 

以上のように適度に負荷をかけることに適したアンクルウェイトは、筋力の向上や筋力低下かくる痛みの軽減に効果的な器具ということができるでしょう。

 

アンクルウェイトを使った運動方法4選

アンクルウェイトを使用した時の運動方法をいくつか紹介します。自宅でも簡単にできる方法ですので、ぜひ実践してみましょう。

 

膝の痛みにも効果的!座って膝を伸ばそう

膝の痛みを改善するためには運動をして筋力アップすることが重要になります。そのための運動を紹介します。

 

1.両足がしっかり地面につくように椅子に腰掛ける

2.片方の脚をゆっくり上げて膝をまっすぐ伸ばす

3.伸ばしきったときにつま先を上げるように手前に動かす

4.ゆっくりと脚を下ろす

 

勢いをつけて行うと膝を痛める可能性があります。ゆっくり脚を上げ下ろしして、太ももの前の筋肉がしっかり働いているのを確認しながら行いましょう。

 

良い姿勢にもつながる!もも上げの運動

次は良い姿勢を保つためにも必要な、脚の付け根の筋肉を鍛える運動です。こちらも、椅子に座って行う運動です。

 

1.両足がしっかり地面につくように椅子に腰掛ける

2.ゆっくりと脚の付根を曲げるようにもも上げをする

3.上げた脚はゆっくりと下ろす

 

膝伸ばしと同じようにゆっくり行いましょう。また、猫背にならないように注意して、しっかり骨盤を起こして行うと効果的です。

 

ヒップアップにもなる!立位での脚上げ運動

お次は立って行う運動を紹介します。運動は2種類紹介しますが、基本的なポイントは一緒です。

 

1.姿勢を良くして立つ(転倒に不安な方は何かを支えにしましょう)

2.片方の脚をゆっくり横に広げる

3.広げた脚をゆっくり戻す

 

この運動のポイントはあくまで脚を上げるという点です。ついつい脚をしっかりあげようとして、体が傾く方が多くいます。しかし、体はまっすぐで、おしりを引き締めるようにして、脚を持ち上げると効果的です。

この運動の要領で脚を後ろに上げると、横に上げる場合と異なる筋肉がきたえられますので、一緒に行いましょう。

 

アンクルウェイトを使った運動の注意点

アンクルウェイトを使う場合、負荷のかけ方や痛みがある場合の対処法など疑問に思う点がいくつかあると思います。そこで、運動の注意点を紹介します。

 

負荷の調整方法

いくら負荷をかけたほうが良いと言っても、かけすぎては怪我につながったり、運動の意欲が下がったりしてしまいます。まずは、10回同じ運動を繰り返してみて、「軽くて重くないな」と感じれば負荷を増やしてみましょう。

そして、同じように10回運動して、「重くて10回はきつい」とか「運動中に痛みを感じる」という場合は、一度負荷を戻したほうが良いでしょう。

 

痛みがある場合の対処法

痛みは体から出る危険信号ですので、痛みがある場合は無理しないようにしましょう。

特に運動の前に痛みなどがある場合は、自己判断などでトレーニングを実施せずに、整形外科などに受診して、運動をして良いか聞くようにしましょう。

運動後に筋肉に痛みがでる、いわゆる「筋肉痛」ですが、運動後2〜3日続く場合は、休憩して、筋肉痛が収まる頃に、また運動をしましょう。筋肉痛の時期は、損傷した筋肉が修復され、筋肉が強くなっている時期なので、無理して運動をしなくても良いです。

 

筋力が向上しない場合の考え方

よく聞かれる悩みとして、「運動しても筋力がつかない」という点です。確かに、ある程度筋肉がついている方や、栄養不足の方は筋肉がつきにくい可能性があります。

ただし、筋肉量は加齢とともに年々減少しいくため、「筋力を維持する」ことも十分効果が出ているということになります。

また、栄養不足という視点では、タンパク質の摂取が非常に重要になります。筋肉を作るタンパク質が不足すると、いくらトレーニングをしても、なかなか筋力向上に繋がりにくくなります。以上のようにトレーニング以外の面での原因を考える視点も持ちましょう。

 

筋力の効果を実感しながらアンクルウェイトで筋トレに励もう

アンクルウェイトは何歳になっても使用できるリハビリ器具です。使い方も単純で、誰でも使用できます。重さが変えられるものを購入すれば、色々な方が、色々な使い方をすることができます。ぜひ、ご購入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

ぎっくり腰の症状は痛みだけではない? 重大疾患が隠れている場合も!?

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はじめに

ぎっくり腰と聞くと、多くの場合腰の痛みを想像するでしょう。しかし、それ以外にも多様な症状を呈する事があり、それには重大な疾患が隠れている場合もあります。今回は、ぎっくり腰の症状と治療についてお話していきます。

 

ぎっくり腰とは

ぎっくり腰というのは俗称であり、正式には急性腰痛症と言います。

不自然な姿勢や急な動作などによって生じた腰の痛みをぎっくり腰とされています。ほとんどの方は、重い荷物を持ち上げた時にぎくっとなるイメージが強いかもしれませんが、かがんだときや咳やくしゃみ、階段を上ろうとした際にも引き起こされる場合があります。

 

症状

ぎっくり腰の一番の症状としては、腰痛です。特徴としては、急激で激痛を伴う場合が多いです。

しかし、痛みだけでは収まらない場合もあります。それは、筋筋膜性の痛みだけでなく、椎間板ヘルニアなどの神経へ影響を与える疾患が隠れているときもあります。

そのため、足のしびれや感覚の異常が認められた場合には、早急に対応しなければなりません。また、見逃してはならない症状としては、1ヶ月以上続く痛み・夜間の安静時痛・膀胱直腸障害です。これらは、重大疾患が隠れている場合があります。そのため、医療機関などで精査する必要があります。

 

治療

ぎっくり腰の治療で、一番に選択されるのは安静です。ほとんどの場合は、1-3日で痛みが引いてきます。また、医療機関を受診し痛み止めを処方してもらうと、さらに短期間での治癒が見込まれます。しかし、中には症状が重たい場合もあるため、その際はコルセットの着用やリハビリでの治療や指導、物理療法などによって、痛み軽減と腰部への負担を減らす方法もあります。
また、ぎっくり腰の治療としてネットに多くの情報があるかと思われます。状態によっては効果的ですが、間違った治療の選択をしてしまうと痛みの長期化や日常生活への影響が強くなってしまう場合もあります。そのため、まずは医療機関を受診し専門の先生に聞いてから行う事をオススメします。

参考文献
標準整形外科学
整形外科リハビリテーション
リハビリテーションビジュアルブック

片麻痺の改善に理学療法士ができること〜トップダウン的アプローチ&ボトムアップ的アプローチ〜

はじめに

脳血管疾患によって意識障害、運動麻痺、感覚障害、言語障害や認知・記憶・遂行障害などの高次脳機能障害、嚥下障害などのさまざまな症状がみられ、日常生活活動の制限や生活の質の低下に直結することになります。そのため脳血管疾患のリハビリテーションの位置づけは極めて重要でありますが、リハビリの介入方法については様々な理論や方法が存在します。そのため、何から勉強したらいいのかわからないという若いセラピストも多いかと思います。
今回は「片麻痺の改善に理学療法士ができること」と題し、片麻痺という運動障害の改善を「運動学習」という側面からまとめ、それらの知識を臨床に応用していくアイデアを示していきます。なお「運動学習理論」の詳細については成書を参考して頂きたいと思います。

 

運動麻痺について

脳血管疾患により皮質脊髄路(背外側系)、皮質網様体脊髄路(腹内側系)の経路に損傷が起こると、四肢の痙性麻痺・弛緩性麻痺・共同運動や予測的制御機構・応答的制御機構の障害が起こります。背外側系障害は四肢遠位筋の運動障害、腹内側系障害は四肢近位・頸部・体幹の抗重力姿勢筋の障害と大まかに分けられます。

 

背外側系・腹内側系の障害の特徴

背外側系の問題は表面化されやすく、臨床ではいわゆる「麻痺」として捉えられやすいです。一方、腹内側系の問題は動作を行う前の姿勢制御に関わるものです。例えばリーチ動作をしようとした時に、腕を伸ばす前にその土台となる肩甲帯や体幹を支持する上肢近位の筋群・体幹筋が先行して働くことによってリーチ動作を達成することができます。この姿勢保持を保障する不随意制御のシステムを先行随伴性姿勢調節といいます。
腹内側系に問題があると、運動の土台となる部分の支持性に問題があるため、目的とする動作を遂行できなかったり、必要以上に四肢の筋緊張を上げて動作を行ったり、他の部位に固定をつくり動作を行うような非効率な運動パターンを呈します。これらの問題は一見すると背外側系の問題と捉えられがちです。ですが、本質的には制御している経路が別なので分けて考える必要があります。

 

麻痺の改善と運動学習

経路別の運動麻痺について述べましたが、では「麻痺が改善する」ということはどういうことなのでしょうか。それは一連の動作の中で、運動麻痺によって引き起こされていた空間的・時間的なズレが最小限になり、スムーズに目的を達成できるようになる、すなわち動作の効率性が改善することが運動麻痺の改善と言えるはずです。

 

シナジーとエングラム

この動作の効率性を決定する重要な因子の1つにシナジーとエングラムという概念があります。中枢神経は、随意運動において作用の似たいくつかの筋群が共同して働くシナジーを利用しているといわれています。このシナジーは複雑な筋骨格系を制御しやすくはしていますが、ある動作1つ取り出してみても、その運動に関わる関節の動きには無数の組み合わせがあり、多関節の多様な運動制御を瞬時に行うことはできません。そこでエングラムという、抽象的な運動の形の記憶が脳内に蓄えられているという概念が生まれました。シナジーの元になる運動プランのようなものです。このエングラムの強化をすることによって、運動の協調が可能になるという考え方です。

 

運動学習への応用

そしてエングラムの強化には、数多くの運動の繰り返しが必要です。そしていったんエングラムが確立されれば、複雑な随意運動が協調性をもって実行されることになります。そのため、麻痺の改善には運動学習の考え方が必要となってきます。

 

運動学習を進めていくには

運動課題の設定

まず運動学習を進めていく上で重要なのは、対象者が主体的な運動行動をするための動機づけを高めることです。そのためには、運動課題の難易度と達成感が必要になってきます。
ある動作の獲得を目標とした場合、それを達成する過程において達成可能なスモールステップの運動課題を設定することが大切になってきます。この際の課題難易度は、セラピストの援助や物理的介助がなされると遂行しやすくなる程度、または自力で行うにしても失敗や成功が混ざるような難易度といわれています。少しづつ目標に近づくような課題を達成していくことで対象者の動機づけにつながります。

 

運動学習の強化(報酬系)

そして課題を達成していく過程で、行動をおこす時に期待される報酬の量(予測報酬量)と、行動の結果として実際に得られた報酬の量(実際報酬量)との誤差に応じて運動学習が強化されていきます。報酬自体で運動学習が強化されるのではなく、予測と結果の誤差に反応します。そのためこの誤差修正がとても大事になってきます。この予測にはこれから行う運動のイメージをしたり、目的動作を上手く行っている人の動作を観察して運動イメージを作ったりすることも含まれます。誤差修正を経て最適化された運動プログラムが残り、フィードフォワード制御にも役立てられることになります。

 

学習された不使用

運動学習の過程で注意が必要なことは、「学習性不使用」と呼ばれるものです。運動学習の負の面で、麻痺した手足を使用しないことを学んでしまうことです。これは脳の損傷により、麻痺側患肢の運動量が減少してしまうことや運動の失敗経験、痛み、抑うつ、代償的な健肢の運動パターンの成功体験によって強化されてしまいます。例えば、動作の中で代償的な運動パターンを繰り返されることによって、痙性麻痺や非効率な運動パターンが強化されるといったことが挙げられます。

 

運動麻痺の改善に理学療法士ができること

ここまでは運動学習が運動麻痺の改善に寄与するということ、また運動学習の強化に必要な考え方について述べてきました。ここからは、実際に運動学習を応用した介入方法にはどのようなものがあるかをまとめていきます。

 

トップダウン的アプローチ

このアプローチは、運動を始める前の段階での介入方法になります。これは運動学習の強化の部分で述べた運動イメージや運動観察にあたり、いわば脳のシステムに直接働きかけるアプローチになります。実運動に至る前に運動や感覚予測を対象者に行わせ、その後実運動を実施し、予測と実際の運動の誤差をフィードバックさせるものになります。他にも運動錯覚(ミラーセラピー)やヴァーチャルリアリティを応用した手法もこれに含まれます。

 

ボトムアップ的アプローチ

一方、こちらのアプローチは、筋骨格系または末梢受容器などの身体システムを作動させることで、感覚運動に関わる脳内システムに働きかける介入方法になります。(エングラムやシナジーの強化に関連するものです。)これには課題指向型練習、ハンドリング、装具療法、CI療法、バイオフィードバック(FES)、促通反復療法、ロボット療法が代表的なものとして挙げられます。
実際の臨床では、脳画像の解釈、対象者の訴え、動作や姿勢観察、触診などを手がかりに、トップダウン、ボトムアップ双方のアプローチを組み合わせながら介入していくことになります。

 

まとめ

冒頭でも述べましたが、いまや脳血管疾患のリハビリに限らず、他分野でも様々な介入方法が溢れかえっています。それ自体は決して悪いことではないと思いますが、医学的な根拠が示されている方法でリハビリは提供されるべきだと思います。挙げさせていただいた各アプローチ方法はガイドラインに掲載されており、きちんとした根拠がある方法論になります。本記事を通して、運動学習の考え方を生かして脳血管疾患のリハビリを展開していく上で、自分が行っているアプローチやこれから身に付けたいと思っているアプローチにはどんな意味があるのか(運動学習においてどのような位置づけなのか)を理解することにつながれば幸いです。


参考資料 脳卒中 理学療法診療ガイドライン

リハビリテーション時の離床基準について!こういう場合は起こすべき?起こさないべき?

はじめに

リハビリテーションを行うにあたり、最も大切なことはリスク管理です。特に急性期の患者や、症状の安定しない患者、内部障害疾患を併存している患者に対しては、十分な注意が必要です。今回は、リスク管理の基本であるリハビリテーション時の離床基準について、復習したいと思います。

 

離床の必要性

臥床期間が長くなるほど、褥瘡や拘縮、起立性低血圧といった二次障害が起こりやすくなります。臥床期間は可能な限り短くし、早めに離床を促すことが大切です。離床することにより、意識レベルや覚醒レベルが改善し、食欲が増し、嚥下がスムーズになることもあります。また、他者とコミュニケーションがとりやすくなり、生活範囲が広がり、活動や参加につなげることができます。

 

離床の手順

離床を開始する際は、主治医の承諾を得て多職種で対象者の情報を共有した上で、行いましょう。また、検査データで貧血の有無や腎機能などを確認しておくことも必要です。急激に起こすのではなく、ベッドのギャッジアップ30度から60度→90度までと段階的に行います。血圧低下、気分不快などバイタルの変化がなく、問題がなければ、ベッドから足を下ろして端座位の姿勢をとります。ベッドから足を下ろした途端、起立性低血圧を起こすケースもあるので慎重に進めます。次に車いす座位、立位と進めていきます。また、離床時間や離床頻度も徐々に上げていきます。傾斜起立台(Tilt table)を用いることもあります。

 

離床の開始基準と中止基準

<離床の開始基準(離床を行わない方が良い場合)> 

・ 強い倦怠感を伴う38.0度以上の発熱
・ 安静時の心拍数が50回/分以下または120回/分以上
・ 安静時の収縮期血圧が80mmHg以下(心原性ショックの状態)
・ 安静時の収縮期血圧が200mmHg以上または拡張期血圧120mmHg以上
・ 安静時より危険な不整脈が出現している(Lown分類4B以上の心室性期外収縮、ショートラン、RonTモービッツⅡ型ブロック、完全房室ブロック)
・ 安静時より異常呼吸が見られる(異常呼吸パターンを伴う10回/分以下の除呼吸CO2ナルコーシスを伴う40回/分以上の頻呼吸)
・ P/F比(PaO2/FiO2)が200以下の重症呼吸不全
・ 安静時の疼痛がVAS7以上
・ 麻痺等神経症状の進行が見られる
・ 意識障害の進行が見られる
・  
<離床の中止基準(離床を中断し、再評価したほうが良い場合)>

・ 脈拍が140回/分を超えたとき(瞬間的に超えた場合は除く)
・ 収縮期血圧に30±10mmHg以上の変動がみられたとき
・ 危険な不整脈が出現したとき(Lown分類4B以上の心室性期外収縮、ショートラン、RonTモービッツⅡ型ブロック、完全房室ブロック)
・ SpO2が90%以下となったとき(瞬間的に低下した場合は除く)
・ 息切れ・倦怠感が修正ボルグスケールで7以上になったとき
・ 体動で疼痛がVAS7以上に増強したとき
 

心疾患を合併している場合は循環器理学療法の基準を参照してください。また、これはあくまで基準なので、ケースによっては該当しない場合もあります。総合的に評価し医師や看護師と相談しながら離床を進めましょう。

 

おわりに

離床は、リハビリテーション専門職だけでは進められません。医師や看護師だけでなく、介護士、家族などと協働して取り組むことが必要になります。食事は離床し、座位姿勢をとって行うなど、生活の中に離床をとり入れて進めると効果的です。座位をとる際には、座位姿勢が崩れないよう注意しましょう。姿勢が崩れると一部分に集中的に圧がかかり褥瘡の原因となり、痛みを発生させることもあります。離床することにより、生活の質の向上につながります。今一度、中止基準を確認して、安全で効果的な離床を行いましょう。

 

(参考文献)

活動と参加につなげる離床ガイドブック.日本作業療法士協会.

www.jaot.or.jp/wp-content/uploads/2011/04/guide-jissen.pdf

 

 

今はどのような状態?脳出血の麻痺と5つのステージの確認方法

はじめに

脳出血の麻痺には、「麻痺の種類」と「ステージ」があります。ステージという言葉は聞きなれないかと思いますが、麻痺の回復過程を6段階で表した経過の指標です。数字はⅠ(重度)~Ⅵ(軽度)と、数字が増えるほど今までの動きに近くなってきます。今回は、この2つについてどのような状態かをお伝えします。

 

麻痺の種類

 麻痺とは、一般的には手足などの四肢の運動機能や感覚が鈍り、もしくは完全に失われた状態を指します。脳出血の麻痺には弛緩性麻痺と痙性麻痺との2種類に分けられますが、症状の出現は様々です。発症直後は弛緩していることが多いですが、時間の経過と共に少しずつ変化のある時、変化が難しい時などは脳出血を起こした場所や大きさ、処置までの早さなどにより異なります。

 

 <弛緩性麻痺(しかんせいまひ)>

・身体の力が抜けた状態で、ダラーンとしています。筋の筋緊張や反射の反応が弱く、筋委縮が起こりやすいため疲れやすくなります。特に肩関節は脱臼しやすくなるため、腕や足の位置に注意が必要です。(肩関節は前に抜けやすく、股関節は後ろに抜けやすいと言われています。)

 

 <痙性麻痺(けいせいまひ)>

・麻痺の起こった筋肉の緊張が高まり、つっぱった状態が続くことです。そのため、弛緩性麻痺とは異なり反射が強く出過ぎる、動かそうと痛みが出やすくなります。(※個人差あり)また、筋緊張が長く続くと関節が固くなり、曲げ伸ばしの動きが難しくなることがあります。

 

麻痺のステージ

 脳出血などの脳血管障害の場合、一般的にまったく動かせない状態から「共同運動」と呼ばれる運動ができるようになって、だんだん元の動きに近づいていくという回復過程をたどります。この回復過程を“ステージ”とよびⅠ~Ⅵ段階で表します。しかし、身体全体が同じように回復する訳ではないため「手、上肢、下肢」とそれぞれの経過を確認していきます。

 
 
 Ⅰ:ブラブラしてまったく動かせない

 Ⅱ:何かのはずみで“勝手に(反射的に)”動いてしまう

 Ⅲ:共同運動ならできる(自分で動かせるが、決まったパターン)

 Ⅳ:少しは分離した(別々の)動きができる

 Ⅴ:かなり分離した(別々の)動作ができる

 Ⅵ:正常に近い動作ができる

 

 

<ステージⅠ>

弛緩期(しかんき)と呼ばれ、筋肉が全く動かない重度の麻痺です。肩関節が脱臼や亜脱臼が起こりやすく、寝る時などに手を下へひかないように注意が必要です。

・手:「グー」ができない

・上肢:全く動かない(ブラブラで軟らかい)

・下肢:全く動かない

 

<ステージⅡ>

 痙性期(けいせいき)と呼ばれ、筋肉がつっぱってくる時期のためくしゃみをした瞬間に腕があがったりします。動かそうとする動作の筋肉の収縮に触れることができます。

・手:ほとんど動かない

・上肢:ほとんど動かない(腕がカチカチでかたい)

・下肢:ほとんど動かない

 

<ステージⅢ>

 自分で動かせますが、決まったパターンでしか動かせない時期です。上肢は曲げる動きが、下肢では伸ばす動きが強く出ます。

・手:「グー」は出来るが「パー」ができない

・上肢:麻痺した腕も上がるが、十分には上がらない(脇が開き、肘が曲がる)

・下肢:麻痺した足も少し上がるが、

座った姿勢では真ん中を保つことが難しくが外へ倒れる

<ステージⅣ>

 1つ1つの関節を独立して動かす「分離動作(ぶんりどうさ)」が少しだけ行える時期です。わずかですが、思うように手や上肢・下肢が動くようになってきます。

・手:指を少し開くことができたり、わずかに物をつまめる

・上肢:腕を前に上げたり、手を腰のあたりにつくことができる

・下肢:座った姿勢で膝を90°に曲げたり、足首を上に上げることができる

 

<ステージⅤ>

 分離動作がかなりできるようになる段階です。元の動きに近い動作が可能となってきます。

・手:色々なつまみ動作や「グー」「パー」が行える

・上肢:腕を麻痺のない手と同じ高さまで上げられる

・下肢:膝の曲げ伸ばしや立って足を前後に動かすことができる

 

<ステージⅥ>

 麻痺の影響をほとんど受けず、正常に近い動作が行えるようになります。(例えば、ごはんを食べる時にお碗を持って箸で食べるなど。)

・手:全運動可能(「チョキ」も行える)

・上肢:全運動可能

・下肢:全運動可能

 

まとめ

 いかがでしたか?ひと言で「麻痺」と言っても、種類やステージがあります。人によっては「だらんとした状態」,「肘がぐっと曲がった状態」など色々想像されると思いますが、どの種類も起こりえます。そして、先ほどにも述べましたが麻痺のステージ(程度)は“手・上肢・下肢でステージが違う”ことが良くあります。また、これらの症状だけでなく目に見えない「失語」や「感覚障害」,「高次機能障害」なども合併していることが多いです。そのため、「どの動きが出来るから、おおよそこのステージ」という指標にして頂けたらと思います。

『こんな症状があれば要注意!脳出血の症状をわかりやすく!』

現在でも日本人の死因の上位に挙げられる脳出血、この病気の名前を耳にしたことがある方は多いと思いますが、具体的にどのような症状を引き起こしどのように進行するのかを詳しく知る人は少ないかもしれません。こちらでは脳出血について分かりやすくご説明いたします。

 

脳出血とはどのような病気?

脳出血とはその字の通り、脳の内部の血管から出血する病態です。出血によって脳内部に広がった血液が脳実質を圧迫することで運動麻痺や感覚障害、言語障害などの諸症状が出現します。

脳は部位によって身体を動かす領域や感覚を受け取る領域、言語を理解する領域や言葉を発する領域などと多様に分かれており、脳出血が起きた場所によってそれらの侵される領域が異なります。同じ脳出血という病気においても、症状や程度に個人差が大きいのはその影響からです。

次項ではこのような脳出血の症状についてさらに詳しくご説明いたします。

 

脳出血の前兆となる症状は?

脳出血の前兆は小さな前駆症状が出現する人から、全く何の症状も出ずに急に発症する人まで様々です。

前駆症状がある場合、主に挙げられている症状は片方の手足が動きづらくなったり痺れなどの感覚障害が出現する、呂律が回りづらくなる、食物が飲み込みづらくなる、脱力感や眩暈が出現する、物が二重に見えたり視野の一部が欠けて見えたりする、激しい頭痛や吐き気が出現するなどです。これらの症状は脳梗塞の場合でも同じような症状が同様に前駆症状として挙げられます。これらの症状が見られたら脳に何かしら異常が出現したことを疑うほうがいいでしょう。少しでもこれらに当てはまるような症状が現れた際はすぐに病院を受診することを強くお勧めします。

また、前駆症状がない場合は突然の意識消失などが見られることがあります。脳出血は脳梗塞と異なり突然症状が出現することが多くなっており、鑑別の際の一つともなっています。

 

脳出血の原因は?

脳出血の原因で最も多いのは高血圧によるものです。発症した方のほとんどがこれまでに高血圧と診断を受けていたり注意を受けていたりされる方が多いようです。高血圧は生活習慣が引き金となる場合が多く、これを予防・改善するためには今一度自身の生活を振り返り改める必要があります。

日本人は昔より塩分過多な食事が多く、塩分摂取量は世界の中でもかなり多いと言われています。塩分過多は血液濃度が高くなり、それを中和するために血液量が増加し高血圧へと繋がります。加えて、最近では食の欧米化による糖分や脂質の摂取量の増加も高血圧へ同じく関係しています。日々の食事に配慮することは高血圧予防・改善には非常に重要とされています。

また、お酒やたばこなどの嗜好品も血圧を上昇させるホルモンを分泌させてしまい、高血圧の原因となりやすいのでなるだけ控えるべきとされています。

 

脳出血が発症しやすい環境とは?

脳出血は血圧の変動と密接に関係しており、環境も発症に大きく影響します。季節では11~3月の寒い時期に多いとされています。屋内と屋外や入浴前後などの寒暖差が大きくなることが血圧の変動にも関わり、血管への負担から脳出血へと繋がるようです。また、発症しやすい時間帯もあり主に日中の活動している時間帯に多くなっています。

更に重労働や心的ストレスなども血圧の上昇に影響し脳出血の発症へと至る場合もあるようです。長すぎる労働や身体に負荷がかかりすぎる力仕事などは高血圧と密接に関係しています。仕事についても身体面、精神面などの側面から見て過剰なストレスへとなっていないか環境調整することが大切です。

 

脳出血を予防しつつ、前兆にご注意を

脳出血の症状の特徴を簡潔にご説明させていただきました。

脳卒中は生活習慣病に分類されており、日々の生活に注意していれば防ぐこともできる病気です。特に食生活の乱れや運動不足などの生活習慣が血圧の上昇へと繋がりやすいので改めてご自身の日々の生活を見直すことが大切です。

万が一脳出血が疑われる症状が出現した際はすぐに救急車を呼んだり病院へ行ったり早急に対応することが必要です。

日常生活で早期発見!パーキンソン病の4大症状

パーキンソン病という言葉は聞いたことがあるけれど、「どんな病気だろう?」,「どんな症状が出るのだろう?」など思われたことはないですか?今回は、日常生活で発見できるかもしれない4大症状についてのご紹介です。

【4大症状】
PDには、必ずと言って良いほど出現する「安静時振戦・無動・固縮・姿勢反射障害」の4つの症状があります。言葉だけは「何だろう?」と難しく感じるかもしれませんが、生活動作で発見できる気づきが沢山あります。

安静時振戦
安静にしている時、何もしていない時に小刻みにふるえる症状です。
特徴は、動くとこのふるえは止まります。
(例・眼鏡を取ろうと手を伸ばす。など)
また、精神的な緊張が高まると震えが多くなると言われています。
始めは身体のどこか1側から症状の出ることが多く、
手や指・両腕・両足・顎などに出現しやすいです。

無動
動作の始まりが遅くなり、全ての動作がゆっくりで小さくなります。
歩く時に「すり足」・「すくみ足」・「小刻み」な歩行が特徴的です。
初期には、歩く時の手の振りが小さく左右に違いが見られたり、
身体の方向転換や寝返りが難しくなったりという変化が見られやすいです。
また、文字を書く時に段々と小さくなっていく「小字症」や
歯磨きが難しい(上下に動かす動き)なども見られたりもします。

固縮
固縮とは、手や足の筋肉がこわばり、関節をスムーズに動かすことが難しくなってくる症状です。特に手や肘に現れやすく、関節の曲げ伸ばしにおいて抵抗の有無が場合によってまちまちである「歯車様固縮(はぐるまようこしゅく)」が出現しやすいです。
また、顔の筋肉のこわばりにより喜怒哀楽の表情が乏しくなり“能面のよう”に例えられる症状を「仮面様顔貌(かめんようがんぼう)」と言われます。そのため、自身は普通にしていても「怒っている」と誤解されてまうこともあります。

姿勢反射障害
バランスを崩して身体が傾いた時に、バランスをとる事が難しくなり転倒しやすくなる症状です。特に後ろ方向への傾きのバランスをとる事が難しくなったり、また、一歩踏み出したら途中で止まれず「突進」するように進んでしまったりします。そのため、坂道などでは途中で止まれなくなったりするため注意が必要です。

まとめ
パーキンソン病は「進行性の病気」というイメージが強いかもしれませんが、日常生活での変化に早く気付くことができると、早期の治療により症状の進行を遅らせることができるようになると言われています。もし、ご家族やご自身で“あれ?何か今までと違う。”と思われる事があれば、かかりつけの病院などに相談してみるのも1つかもしれません。

参考文献
Moisan F.et al.J Neurosurg Psychiatry.2015 Dec.23.
パーキンソン病について知る~代表的な症状,診断・検査,対処法,進行の仕方~
実践リハ処方

これだけは知っておきたい腰痛の原因と対処法

はじめに

腰痛というのは、医療技術がかなり進んだ世の中になっても、仕事上でおこる障害の6割を占めていて、この比率は昔から全く変わっていないのです。少しぐらい改善されてもいいと思うのですが、そうではありません。急に腰痛になって、しばらくしても治らない、仕事も休みがちになってしまう、ずっと働いていられるのかな?この先の生活はどうなってしまうのだろう?と人生を不安にさせてしまいます。働く人たちを苦しめ、生産性を著しく低下させてしまう要因となっているのです。今回はそんな腰痛に対しての対処法を、リハビリの専門職である理学療法士としての立場からお伝えしていきます。

 

腰痛の基礎知識

腰痛のほとんどは原因がわからない!

まず腰痛の基礎知識から始めたいと思います。実は日本人の約8割が腰痛を経験するといわれています。そして医療機関でレントゲンやMRIなどの画像診断をしてもらう訳なのですが、しっかりと原因はコレだと分かる腰痛はわずか15%程度で、残りの85%はよく分らないけど、腰が痛いということになります。原因がわからないなんて少し怖い気もしますが、大抵は1ヶ月から2ヶ月ぐらいで治るものが多いというデータがあります。また、原因が分かる腰痛を少し専門的な言葉で言うと「特異的腰痛」といい、分らない腰痛を「非特異的腰痛」といいます。これらの腰痛が3ヶ月以上続いて長引いてしまうと、完治しにくく困ったことになりやすくなります。

 

腰痛が長引いてしまう原因とは?

では長引いてしまう原因とは何なのか?これには「体を動かすことを恐れ、腰痛とうまく付き合うのが下手」という方は腰痛が長引きやすい傾向があります。世界各国の腰痛診療のスタンダードでは、腰痛が起こった場合は3日以上の安静はNG、痛みの範囲内で動いた方が良いとされています。様々な研究結果から3日以上安静にした人の方が、普段動いていた人よりもその後の経過が悪いということがわかっています。
また脳には本来、痛みを感じたらそれを抑える物質が自動的に出るという、生まれつき誰にでも備わっている鎮痛機構があります。しかし不安・恐怖・不快などの負の感情、すなわちメンタルの問題によって本来ある鎮痛機構が正常に機能しなくなっている人も多いということも最近の研究で分かってきています。そのため、「精神的なストレス耐性が低い」方も腰痛が長引きやすいといわれています。
腰痛が発症してしまい痛みの体験をした後に、励ましや正しい情報を得ることができず、負の感情だけが溜まってしまうと、痛みの負のループに陥り、抜け出せなくなってしまう危険性があるということです。「病は気から」というのはよく言ったもので、少し楽観的にとらえるぐらいで丁度いいということです。

 

レッド・フラッグな腰痛

次はレッド・フラッグ「危険な腰痛」についてです。これはなるべく早く医療機関で対処した方が良い部類の腰痛になります。その兆候として、レッド・フラッグサインというのですが、「安静時でも痛みが引かない、動作による痛みの差がない(どんな動きをしても痛い)、痛みやしびれが強くなっている、胸の痛み・体重の減少・発熱が伴っている」などがあります。これには、悪性腫瘍・感染症・炎症性疾患・骨折などの重大な病変が隠されている可能性があります。もし腰の痛みと共にこういった症状がある場合は早めの受診をお勧めします。ちなみにこれは原因が特定できる15%の特異的腰痛に含まれるので、医療機関での診察や画像診断が有効になります。したがって裏を返すと、約85%の腰痛というのは特に病気はなく、筋力・体力を落とさないためにも、早めに動いた方がいいということなのです。

 

腰痛の原因

姿勢と生活習慣

ここからは腰痛の原因についてのお話になります。よく「姿勢を良くしましょう!」という話を巷でよく聞きますが、大抵の人は猫背だったり、腰が反ってしまっていたり、背骨が真っ直ぐになり過ぎている方がほとんどです。しかしこうした姿勢が腰痛に繋がりやすいということをまず念頭に置いておいて下さい。
ダメな姿勢になってしまう原因とは、例えば猫背で腰が反っている方がいるとします。想像して頂くと、首や頭は前に出て、背中は丸まり、お腹が前に出て腰が反りかえっているような姿勢となります。こうした姿勢は、背中を丸めて机に向かっていたり、腰を反らせて物を持ち上げていたり、うつ伏せで長時間過ごしていたりする習慣が普段からある方に多いです。つまり普段の生活習慣が悪い姿勢の原因になっているということなのです。

 

筋肉のアンバランス

そして悪い姿勢は筋肉のアンバランスというものを生じさせます。悪い姿勢をしていると筋肉が短くなる所、逆に引き伸ばされて長くなってしまう所が出てきます。これが筋肉のアンバランスになります。筋肉は正常な長さでないとうまく力を発揮できません。つまり短すぎても、長すぎてもダメということです。そして筋肉は皆さんご存知のように体の関節を動かしている動力源です。普段の生活で悪い姿勢をしている事により、こうした筋肉のアンバランスが生じていると、本来の正常な関節の動きを狂わせて、関節自体やその周囲にある部分にストレスをかけてしまいます。それが繰り返される事により痛みが出てきて、腰痛という状態に陥ります。もう少し話を広げると、悪い姿勢によって筋肉のアンバランスは体中で起こってくるので腰痛だけではなく、その他の身体のトラブルとして訴えが多い、首・肩・膝周りの痛みの原因にもなります。

 

腰痛の対処法

では腰痛の対処法に関しまして、まず「痛みを怖がらない」ということです。痛みを怖がり安静にしてしまうデメリットはかなり大きいです。また「運動・ストレッチ」もとても大切です。先ほど姿勢と腰痛の関係でもお話ししました、腰痛になりにくい体を作るためには、継続的な運動が大事です。さらに、運動には内因性オピオイド、いわゆる脳内麻薬です、この分泌を増加させて痛みを和らげてくれる効果もあります。加えて、先ほどお話しした脳に元々備わっている鎮痛機構も働きやすくなります。つまり、継続的な運動習慣は腰痛になりにくい体と同時に、痛みに強い「脳みそ」を作る事にもつながります。
次に「腰にやさしい体の使い方を身に付ける」ことも重要です。腰痛の原因は筋肉のアンバランスによって、体にかかる繰り返しのストレスでありますので、腰に負担がかかるような動作方法は極力避けた方が良いことになります。地味ですが非常に効果がある対策になります。あとはレッド・フラッグサインのような心配な兆候がある場合は、なるべく早く診察を受けるようにして下さい。そして一番重要なことは、「腰痛は自分でコントロールできる」ということです。

 

まとめ

「腰痛には運動やストレッチが大事」とても当たり前に聞こえますが、その当たり前を継続できずに腰痛を悪化させてしまう方が数多くいます。その要因としてはメンタル面の問題も大きく関わってきます。実際の運動やストレッチの方法に関しては、インターネットで検索できるもので十分効果があると思います。肝心なのは、腰痛と上手に付き合うことです。「腰痛は自分自身でコントロールできる!しなくてはいけないのだ!!」という能動的な気持ちが腰痛予防の第一歩となることを忘れないでください。

糖尿病患者にフットケアが必要な理由とのその方法

はじめに

糖尿病はインスリン代謝性障害を起因とする成人病です。糖尿病患者数はその予備軍を含めると2,000万人を超えるという統計が出ており、世界的にみると11人に1人は糖尿病だと言われています。
糖尿病の一番恐ろしいのは、その合併症だとされており、糖尿病の慢性合併症として有名なのは、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性ニューロパチー、梗塞などが挙げられます。これらは糖尿病が引き起こす細小血管障害、末梢神経障害がその主体にあります。今回は合併症の中でも、下肢の末梢血管障害(血管閉塞)として起こる潰瘍や壊疽を予防する「フットケア」という考え方についてまとめていきたいと思います。

 

糖尿病患者にフットケアが必要な理由

フットケアとは足部の痛み・浮腫・違和感などを緩和する処置全般を意味します。これを重要視する理由としては、足部の潰瘍や壊疽が進行してしまうと、最悪のケースは切断という選択枝しかなくなってしまうからです。(壊疽とは足部の傷などから感染し、皮下組織・骨の腐敗をきたす症状)

 

潰瘍・壊疽の原因

糖尿病の足部潰瘍や壊疽が形成される要因として、まず糖尿病性ニューロパチーによる知覚消失があります。足をぶつけるなどしても痛みを認識できないため、足部の損傷に気付きません。知覚消失が存在している足部に様々な外的な要因が関与して潰瘍形成していってしまいます。外的な要因の例としては、靴の適合不良、胼胝形成、熱傷、外傷、爪や皮膚病変などがあげられます。そしてさらに高血糖の状態は、血液中の白血球の働きが低下し、易感染性や創部治癒の遷延を引き起こします。こうして損傷した部分の深部感染や虚血などにより壊疽に発展し切断に至るケースがあります。
糖尿病性ニューロパチーと末梢血管障害は単独でも強力な危険因子ですが、多くはこうして複合して発生し、さらに重篤な状態を引き起こしかねない要因となります。

 

フットケアの実際

セルフモニタリング

フットケアの中でまずやることは、足部の状態をよく観察することだと言われています。潰瘍や壊疽の予防は早期発見・早期治療が重要なので、神経障害が合併している場合は特に観察することが大切になってきます。また足部の清潔保持・保護(靴下を使用するなど)などのセルフケアも効果的です。足部の異常を見つけた場合は、すぐにフットケア外来などの専門外来を受診することが肝要です。
 足部の観察で清潔・傷の有無の他にチェックしておいた方が良いポイントは、足部の温度です。皮膚温の上昇は炎症の前駆症状と捉えられています。足部の皮膚温度をセルフモニタリングした場合、著明に潰瘍の再発率が減ったという研究結果があり、その重要性が示されています。

 

靴の選定・装具療法

セルフモニタリングやケアと並行して行うべきなのが、歩行時の足部にかかる圧力の軽減です。まずは自分の足に合った靴を選定することが大切です。靴の不適合による靴擦れは潰瘍発生要因の40%を占めています。靴の適合指導が足病変予防には重要だと言われています。また足部にかかる圧力を軽減する靴形装具やオーダーメイドのインソールの利用も有効です。これらは圧力を軽減するだけではなく足部の機能的アーチの保護に寄与し、足部潰瘍の発生率を下げる効果があります。

 

エクササイズについて

足部機能の維持のためにもエクササイズが重要ですが、過剰なエクササイズは潰瘍発生の要因とも成り得ます。ここではエクササイズの注意点を述べていきたいと思います。適切な運動をしていくには、足部の状態をしっかりと把握してからになります。ここでも皮膚温度が重要で通常の皮膚温より2.2℃の上昇が2日連続でみられた場合、通常の皮膚温に戻るまで歩行量を減少させた方がよいとされています。リスク管理をしながら荷重を伴う筋力トレーニングやバランス練習、歩行運動などのホームプログラムを実施した場合、1日の歩行量の減少が抑制され、廃用症候群の予防という観点での活動量への介入は有効であり、足部潰瘍形成率にも影響もないとされています。

 

まとめ

いかがだったでしょうか?糖尿病は入院患者さんにおいて非常によく目にする合併症です。日頃から運動療法による低血糖症状の発生には注意をしていますが、フットケアに関しては見落とてしまっているセラピストも多いかと思います。入院中では医療スタッフの観察の目がありますが、重要なのは退院してから患者さん自ら足部の状態をチェックしていけるように入院中から指導していくことです。そのためにはフットケアに関する知識を身に付けて、その重要性を伝えられるようにしておくことも糖尿病のリハビリにおいては大切なことだと思います。

参考資料 糖尿病 理学療法診療ガイドライン