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大腿骨頸部骨折の概要と治療

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はじめに

2025年、団塊の世代が75歳に達する時期をピークに今後も高齢者の増加が問題となってくる我が国ですが、高齢者の増加に伴い身体機能の低下に伴う転倒による骨折も大きな問題の一つになってくるでしょう。

転倒は高齢者の身体機能に直接障害を及ぼすだけでなく、心理面にも大きな影響を与える問題です。

 

今回は転倒によって発生しやすいとされる4大骨折と呼ばれる中でも特に多い、「大腿骨頸部骨折」に注目し、基礎的な知識や実際に行われている治療や手術に関してまとめていきたい思います。

 

社会問題にもなりうる、高齢者の転倒とともに増える疾患

 疾患の概要(原因や疫学など)

 ・大腿骨頸部骨折とは

そもそも大腿骨頸部骨折とは大腿骨近位部に発生する「大腿骨内側骨折(関節包内)」「大腿骨頸部外側骨折(関節包外)」骨折に分類されその総称として使われている名称です。

実際の治療方針や予後は関節包内の骨折か、関節包外の骨折かで異なってきますが、地域の介護の現場など、医療職以外のスタッフが多くかかわる現場では特に分類されず、「大腿骨頸部骨折」とひとまとめにされることがほとんどです。

文献などによっても呼称が異なる為、ガイドラインでは内側骨折を『大腿骨頸部骨折』、外側骨折を『大腿骨転子部骨折』という名称に統一しています。

今回の記事では、日常生活上で大きな問題に発展しやすい『大腿骨頸部骨折(内側)』について主にご説明していきます。

 

・大腿骨頸部骨折の原因と危険因子

2010年には約18万人,2020年には約25万人,2030年には約30万人にも上るとされている大腿骨頸部骨折ですが、一番多い原因は転倒によるものです。

特に大腿骨の頸部は構造的にくびれたようになっている為骨折しやすい場所であるにも関わらず、ひとたび骨折してしまうと仮骨形成が起こりにくい、血行が悪い部分である為程度によりますが、手術療法が適応されることが多い疾患です。

 

大腿骨頸部骨折の分類(garden分類)

 骨折の程度、年齢や既往歴を加味し、治療方針を立てる上で様々な分類があります。

大腿骨頸部骨折の分類は骨頭の転位の程度によって4つのステージに分類したGarden Stageが一般的です。

StageⅠ、Ⅱは転位のない状態、Ⅲ・Ⅳは転位のある状態です。

 

・StageⅠ:不完全骨折、且つ転位のない状態

 

・StageⅡ:完全骨折であるが転位はない状態。遠位骨片と近位骨片の骨梁の方向性に乱れがない状態を示します。

 

・StageⅢ:転位のある完全骨折で遠位骨片と近位骨片の骨梁の方向が一致していない状態です。

 

・StageⅣ:転位が高度の完全骨折でStageⅢとの違いは臼蓋,骨頭,遠位骨片内側の主圧縮骨梁の方向が一致して,正常の方向を向いている点です。

 

ただし、実際の現場では必ずしもこの分類通りとは限らないため、治療法の選択と予後予測の指標としては転位の有無で「転位型」と「非転位型」として分けることが主流です。

 

大腿骨頸部骨折の手術について

 大腿骨頸部の治癒までの時間がかかること、治癒までの時間によって2次的な障害の影響が大きいことから、高齢者の大腿骨頸部骨折ではほとんどの場合で手術が行われます。

術式の中には股関節の脱臼などのリスクを伴うものもありますので、改めて基礎的なことを理解しておく必要が有ります。

ここでは代表的なものを紹介しますが、患者さんがどのような術式で治療を行ってきたのかは必ず確認するようにしましょう。

手術の種類には主なものとして大きく2つ。

骨折した骨頭を人工のものに入れ替えてしまう人工骨頭置換術とピンなどで骨を固定する骨接合術の2種類があります。

 

・人工骨頭置換術(BHA)

文字通り、人工の骨頭をもとの骨と入れ替える術式です。略してBHAと言われます。

チタンやコバルトクロム合金、ステンレスなどの金属素材の合金やセラミックス、ポリエチレンなどの素材でできた骨頭を骨に埋め込み固定します。

固定の方法も様々で、セメントを用いた方式やセメントを使用しないセメントレス方式など様々なものがありますので確認をしておきましょう。

メリットとして最も大きいのは術後早期に荷重が行えることです。

一方デメリットとしては一番に脱臼のリスクがあります。

BHAには後方侵入、前方侵入という2つのアプローチ方法があります。

後方侵入は梨状筋、外旋筋を切開して行われますので、骨頭が後方に飛び出し脱臼してしまうリスクがあります。

脱臼しやすい禁忌肢位は「屈曲・内転・内旋位」でこれらの複合動作が脱臼のリスクを高めます。リハビリ中にセラピストがこの方向に動かさないことはもちろんですが、これらの動作が日常生活の中では当たり前に出てきます。

床に落ちたものを拾う動作や靴を履く際など日常生活上での動きをチェックする必要が有ります。

一般的に後方侵入よりも脱臼のリスクが低いといわれていますが前方侵入の場合は「伸展・内転・外旋位」が禁忌肢位と言われています。

後方侵入の際の日常動作ほど、これらの複合動作が登場する可能性は低いですが、リスクを想定し、患者さんへの指導を行っていきましょう。

また、術後は手術に伴うリスクとして深部静脈血栓症や感染のリスクがありますので患者さんの状態を確認し、医師と連携してリハビリテーションをすすめていく必要が有ります。

 

・骨接合術

StagⅠやⅡなど比較的状態が軽い場合に適応される術式です。年齢や状態によっては軽いステージでも人工骨頭が選択される場合もあります。

 

術後リハビリテーション

 術後は早期離床がすすめられており、リハビリテーションを積極的に実施していく必要があります。主に以下のような理学療法が実施されます。

手術直後は起居動作から座位保持・移乗・立位保持ができるようすることから始め、荷重をかけたリハビリテーションが行われていきます。

 

・筋力増強運動

また股関節周囲のアプローチは間違いなく必要ですが、反対側の下肢など他の部分の筋力が活動性の低下により低下することも防いでいく必要があります。

歩行練習や全身運動を通して術側以外の動作能力も保っていきましょう。

 

・歩行練習

通常は数日後には荷重をかけた練習を開始していきます。平行棒などを使い術後の痛みに配慮しながらも荷重をかけていきます。

恐怖感がとれ、筋出力が向上してくると歩行器や杖歩行、階段昇降などを使ってレベルを上げていきましょう。

 

・日常生活指導

全人工関節置換術(THA)を実施した患者さんに比べ脱臼のリスクは低いとは言われていますが、上記術式の部分でも触れたように特に日常生活では人工骨頭置換術を行った患者さんには脱臼の危険性があります。

日常生活での動きを確認し、動作の修正を行える部分は指導し、環境調整が必要な場合はアドバイスを行っていきましょう。

また入院時だけでなく、外来でリハビリを受けに来られる期間もあると思いますが、日常生活上でできる運動を指導することも重要です。

 

大腿骨転子部骨折について

比較的血行が良好で、予後の良い大腿骨転子部骨折に関しては治療方針が少し異なります。

転子部骨折の手術は、骨癒合が見込めるため、主に骨接合術が選択されます。

代表的な術式にはCHSやガンマネイルといったものがあります。

 

最後に

 はじめにご紹介したように高齢者の増加に伴い、今後間違いなく大腿骨頸部骨折を受傷される患者さんも増加します。

受傷直後のリハビリテーションはもちろんすでに人工関節を入れた患者さんが別の理由でリハビリを受けに来ることもあるでしょう。

そのような患者さんに適切な対応ができるように、基本的な部分を日々理解しておきましょう。