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椎間関節性腰痛の発生メカニズムと治療

はじめに

『腰痛』を持った患者さんに出会ったことがない理学療法士はいないと思います。
厚生労働省のデータによると腰痛は日本人の自覚症状としてNo1の症状であり、生活スタイルの変化などで今後も腰痛に悩む人は増加することが予測されます。

その一方治療となると、80%以上は原因のはっきりしないいわゆる『非特異性腰痛』であることが分かってきており、残り20%の特異性腰痛との鑑別や、心因性の可能性も考慮しなければいけないなど治療にあたって理学療法士を困らせます。

今回はそんな腰痛の原因の一つと言われる『椎間関節性腰痛』についてその基本的な部分をご紹介していきます。疾患の特徴や症状を理解することによって腰痛の評価に活かしていきましょう。

 

椎間関節の解剖学や神経支配

①関節の形状

各椎骨の上関節突起と下関節突起で構成される滑膜関節で、関節面は硝子軟骨よりなり滑膜と関節包に包まれています。

また部位によっては脂肪組織が関節包を突き抜けて存在します。

 

②神経支配

椎間関節は脊髄神経後枝の内側枝により支配されています。

後枝は横突起の背側に出た後で内側枝と外側枝に分かれます。

それぞれ外側枝は幼鳥六筋へ、内側枝は隣接する椎間関節包の下部、多裂筋、そして椎間関節包の上部へと向かいます。

つまり、後枝の内側枝は同一レベル、及び一つ下のレベルの椎間関節を支配しているということになります。

 

また椎間関節と周辺組織には感覚受容器が豊富にあることが分かっており、特に侵害受容器の割合も多いことから神経学的にも痛みを感じやすい、発生源になりやすい関節であることが分かります。

 

椎間関節の機能、バイオメカニクス

腰椎は椎体、椎間板、椎間関節と靭帯で構成されていますが、椎体と椎間板が荷重を支える機能として特化しているのに対し、椎間関節は靭帯とともに腰椎の過度な動きを制限するためのストッパーとしての役割を果たしています。

またもう一つ重要なことは椎間関節が荷重関節であるということです。研究によると椎間関節は脊柱事態にかかる荷重の16%程度を受ける役割を担っています。

残りの84%は椎体及び椎間が受けているといわれています。

軸方向の負荷がかかった時、下関節突起を通して椎弓へと伝わり、この際に関節包下部は下関節突起と追及の間にインピンジされることが確認されています。

 

腰椎伸展時には下関節突起下端部が下位椎弓に接触し、関節包の上方部に張力が加わります。一方腰椎屈曲時は、伸展時のような関節包の高い緊張はおこらないとされています。

 

回旋に関しては、関節面のほとんどが全体に接触しているため、抵抗力は大きくほとんど動きません。

 

椎間関節性腰痛の発生メカニズム

①急性疼痛

神経の部分でもご説明したように椎間関節とその周辺組織は侵害受容器や神経線維は豊富に存在しています。

そこに不自然な姿勢などが原因で機械的なストレスが加わると、侵害受容器が興奮し痛みがでると考えられます。

特に腰椎過伸展時は下関節突起と椎弓の間で強いストレスが加わる為、痛みを発生しやすいと考えられています。

 

このような機械的ストレスは軟部組織の付着部周囲に牽引ストレスをかけ、その組織が炎症すれば痛みが引き起こされますので、どれが慢性の腰痛につながると考えられます。

 

②慢性疼痛

椎間関節の炎症により痛みが持続的に発生している状態です。

実際に椎間関節へ炎症性の物質を投与した実験では感覚受容器の感受性の亢進や受容器の痛みの閾値を下げることによって痛みに過剰に反応しやすくなる可能性が実験で示されています。

 

椎間関節性腰痛の診断

椎間関節性腰痛の難しいところは『はっきりと診断しづらい』というところにあります。

椎間関節性の腰痛では特異的な画像診断はないことも理由の一つです。

 

①臨床症状

腰痛の中でも椎間関節腰痛の評価で重要な臨床所見として

①神経症状を伴わない腰痛

②腰部の伸展による疼痛の憎悪の為に後屈制限がある

③椎間関節部の圧痛

④疼痛による筋力(出力)低下は合っても脱力による筋力低下は見られない

⑤基本的に片側性の痛みの訴えがある。

などが挙げられます。

 

ただし、統計学的に優位な臨床所見についての報告はあまりないのが現状で、いまだ不明の部分が多いといえますね。

 

②椎間関節・腰神経後枝内側枝ブロック

この後に出てくる治療としても用いられる手段ですが、直接疑われる椎間関節ブロックや腰神経後枝内側枝ブロックを行うことは診断上でも非常に重要です。

 

椎間関節性腰痛の治療

①保存療法

安静、薬物療法、生活指導や運動療法など様々で、ほとんどの椎間関節性の腰痛は保存療法が選択されます。

この中には理学療法士によるリハビリテーションも含まれますし、運動指導では重い荷物の持ち方や、腰椎の過伸展に代表される不良姿勢での日常生活を指導することも重要です。

 

②ブロック

保存療法が一般的な腰痛治療とあまり手段として変わりないのに対して、ブロック治療は診断の部分でも述べたように、本当に腰痛の原因が椎間関節にあるのかを確認する為にも有用とされています。

方法としては椎間関節に対してリドカインを注入して行うものと、M-A溝と呼ばれる乳様突起と副突起の間の溝をターゲットに行う腰神経後枝内側枝ブロックというものがあります。

 

③手術

以前は椎間関節固定術という術式が選択される場合があったようです。

ただし最近においては椎間関節性腰痛が疑われる場合、外科的な手術をする症例はまれでほとんど行われていないようです。

 

慢性の腰痛に対してブロック治療の結果、椎間関節、腰神経後枝内側枝ブロックが一時的に有効であれば、経皮的電気焼灼術が検討される場合があります。

 

経皮的電気焼灼術とは腰神経後枝内側枝ブロックとおなじM-A溝に対し傍脊柱起立筋をモニタリングしながら電気刺激を加えて焼灼する方法です。

 

椎間関節性腰痛のリハビリテーション

① 不良姿勢の改善

前述のように、腰椎椎間関節の痛みは関節にかかる機械的ストレスや周辺組織のインピンジメント原因で起こります。

多くの場合は腰椎過伸展の際に痛みを発生させることが多く、方向性としてはきれいに体幹の伸展が出せる機能づくりを行っていく必要が有ります。

後屈動作においては股関節、骨盤、腰椎の3つの機能が正常に働いていることが重要で、たとえば股関節の伸展がうまくいかない場合は、腰椎が可動域を確保する為に過伸展することが考えられます。

 

このような姿勢を評価し、腹筋など細かい部分のアプローチをすすめていきましょう。

 

このように日常生活上での痛みを緩和する為に腰椎だけではなく全身を見る視点を持って改善を図っていくことが非常に重要です。

 

② 椎間関節のモビライゼーション

椎間関節を対象とした手技でモビライゼーションがあります。

側臥位にて上位と下位の棘突起を操作し椎間関節のモビライゼーションを行うことで多裂筋の収縮を促します。

多裂筋は椎間関節の周辺に付着する組織でしっかりと収縮していれば椎間関節へのインピンジメントを防ぐ役割があります。

 

③ 動作、生活指導

普段の痛みについてしっかりと聴取し、運動や動作、生活指導を行う必要があります。
そもそも不良姿勢により椎間関節に過度のストレスがかかったことが原因なので、普段の仕事や家事の場面で不良姿勢に陥っている場面があることが多いです。

具体的には重いものの持ち方(腰痛を過伸展しない)などその人に合わせた動きを指導してあげましょう。

 

さいごに

いかがだったでしょうか。まだまだ真相が分かっていない椎間関節性腰痛ですが、重要なのは冒頭でもご説明したように症状や所見を加味したうえで評価をしていくことです。

重篤な腰痛(レッドフラッグ)を見逃さない為に、患者様への治療成果を少しでも上げていけるように学習を進めていきましょう。


【参考文献】
1. 山下敏彦、椎間関節性腰痛の基礎、日本腰痛会誌、13(1):24-30、2017

2. 寒竹司、田口敏彦、椎間関節の痛み、Mb Orthop、26(12):21-24、2013

3. 田口敏彦、椎間関節由来の腰痛、脊椎脊髄、25(4):311-314、2012

4. 山下敏彦、椎間関節性腰痛の基礎、脊椎脊髄、13(6):432-438、2000