リハラボ

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脊髄損傷のリハビリテーション

はじめに

脊髄は、脳からの運動指令を四肢に伝達を行ったり、触れた物の感覚を脳へと伝える重要な通り道です。

この通り道に損傷を起こすと、運動障害・感覚障害を引き起こし、日常生活に多大な影響を及ぼします。

今回は脊髄損傷に対するリハビリテーションについてお話していきます。

 

概要

脊髄の解剖

脊髄は、脳から繋がる中枢神経であり、延髄の尾側から始まり第1腰椎から第2腰椎で脊髄円錐となり終わります。

分岐する神経根に対する脊髄の部位を髄節と呼び、頸髄が8髄節・胸髄が12髄節・腰髄が5髄節・仙髄が5髄節・尾髄が1髄節の合計31髄節からなります。

 

脊髄神経と脊椎の位置関係

脊髄神経は、脊椎にある脊椎孔を通り、連なって1本の管のようになっているため、脊柱管と呼ばれます。

脊髄神経の構造は、前側から出る前根と後側から出る後根の2本が合わさり、脊髄神経となって脊柱管から左右に1本ずつ出ます。

 

脊髄損傷とは

脊髄とは、脳と身体をつなぐ中枢神経の事で、この部位の損傷を脊髄損傷といいます。

主として大きな外傷を受け、脊椎が骨折・脱臼を起こした際に生じます。

また、骨折や脱臼が無くとも、脊柱管が狭いところに外傷が加わることで、脊髄損傷が生じる場合もあります。

 

・症状

完全麻痺と不全麻痺があり、損傷された部位から遠位の運動・知覚の障害を引き起こします。

完全麻痺は、損傷した部位から遠位の運動・知覚が全て失われます。

 

・診断

麻痺が存在し、MRIやX線で、脊椎・脊髄の損傷部位が明らかになれば診断がつきます。

 

脊髄損傷に対するリハビリテーション

脊髄損傷では、重度の運動麻痺・感覚障害を呈し、一度損傷したら元に戻らないとされています。

リハビリテーションでは、残存した機能を活かし、できる事を増やしていき、日常生活への復帰を目指します。

また、不全麻痺では、運動・感覚の回復の見込みがあり、予後以上の生活を送れる可能性があります。

脊髄損傷を受傷する者は、若い方も少なくなく、以前との生活との乖離に向き合い、対応していかなければなりません。

 

診断の重要性

脊髄損傷は、運動麻痺・感覚障害だけでなく、自律神経のコントロールも失うため、自律神経症状も呈します。

臨床的に重要視されるのは、運動麻痺と感覚障害であり、その正確な診断は、医学的リハに必要不可欠です。

リハにおける頸髄・脊髄損傷における障害髄節の指標は、健全に機能の残存する最下限髄節を表現するのが一般的です。

残存する髄節によって、機能予後を推定する事ができ、それに応じてリハビリを進めていきます。

 

・頸・脊髄損傷の残存高位と可能な日常生活動作

C2-C3

主な筋肉:胸鎖乳突筋

運動機能:頭部の前屈回転

日常生活:全介助

自助具など:人工呼吸器管理、電動車いす(下顎などでの操作)

C4

主な筋肉:横隔膜・僧帽筋

運動機能:頭頸部の運動・肩甲骨の挙上

日常生活:全介助 

自助具など:電動車いす・環境制御装置・リフター

C5

主な筋肉:三角筋・上腕二頭筋 

運動機能:肩関節運動・肘関節屈伸、回外

日常生活:BFO・装具と自助具による食事動作、整容の一部(歯磨き・髪をとく)、その他は介助

自助具など:平地は車いす、その他は電動車いす

C6

主な筋肉:大胸筋・橈側手根伸筋 

運動機能:肩関節内転・手関節背屈

日常生活:移乗動作(前後)可能、車いす駆動、ベッド上での寝返り、上半身の更衣

自助具など:テノデーシススプリント

C7

主な筋肉:上腕三頭筋・橈側手根屈筋 

運動機能:肘関節伸展・手関節掌屈

日常生活:床上・移乗自立、更衣動作自立、自動車運転可能

C8-T1

主な筋肉:手内在筋 

運動機能:指の屈曲 

日常生活:車いす上ADL自立

T6

主な筋肉:上部肋間筋・上部背筋 

運動機能:体幹の前後屈 

日常生活:実用的車いす移動

自助具など:骨盤帯付き長下肢装具と松葉杖で歩行可能

T12

主な筋肉:腹筋 

運動機能:骨盤の引き上げ 

日常生活:実用的車いす移動

自助具など:長下肢装具と松葉杖で歩行可能

L4
主な筋肉:大腿四頭筋 

運動機能:膝関節伸展

日常生活:歩行可能

自助具など:短下肢装具・杖

 

病型分類とリハビリテーション

脊髄損傷の病型分類は、横断型・中心性脊髄型・ブラウンセカール型・前脊髄動脈症候群型など様々です。

受傷後の麻痺は流動的で、特に不全麻痺では時間ごとに症状が変化します。

したがって、神経学的所見は経過を追いながら、頻回に観察する必要があります。

また、病型によって特徴があり、それに対してのリハビリテーションの進め方も異なってきます。

①高齢者の不全麻痺のほとんどは中心型であり、運動麻痺と温痛覚障害の左右差が混在しています。

この場合は、徹底した残存筋の筋力強化を行えば、境界域麻痺筋筋力の劇的な改善を図れる可能性があります。

②頸髄不全麻痺で痺れを強く訴える場合、両下肢装具装着での歩行訓練や器具を活用した上肢残存筋筋力強化を徹底すれば、かなりの麻痺改善が望めます。

③50代以前の腰椎損傷による対麻痺の場合、脊髄損傷・円錐部損傷・馬尾損傷のいずれかを見極める必要があります。

→脊髄損傷であれば、肛門周囲の感覚が予後予測のポイント。

また、大腿四頭筋の随意運動が可能なら、短下肢装具使用での実用的歩行をゴールにできます。

→円錐損傷の場合、まだらな筋力残存があり、筋力強化にはきめ細かさが必要です。

→馬尾損傷の場合、予後予測は難しいですが、完全麻痺であっても、年単位で改善する望みがあります。

④膀胱直腸障害が、生命予後とADL障害を決める大きな因子であるため、早期に膀胱造影による評価が必要です。

 

障害像と対策

・運動障害

脊髄に外傷やその他の原因により横断性損傷を受けると、損傷髄節以下の全反射が消失します。

この時期(脊髄ショック期)の運動麻痺は恒久的には続くわけではありません。

一般的に、6週は神経学的に回復が望まれ、不全損傷の場合はそれ以上の期間で回復をみることもあります。

高齢者の頸髄損傷は下肢よりも上肢に重い中心型麻痺がほとんどであり、運動麻痺の改善も下肢ではかなり望みがあります。

しかし、痙性が強くなる事が多く、ADLの阻害因子となってしまうこともしばしばあります。

だが、その残存機能を鍛え上げなければせっかくの麻痺改善も臨床的な意味をなくしてしまうため、痙性に対する対策を行いつつ、残像機能を徹底して鍛えましょう。

・感覚障害

外傷による完全麻痺では、急性期において損傷髄節以下の表在・深部感覚が脱失します。

急性期を過ぎると、浮腫の改善等により、感覚障害が改善する事もありますが、かえってしびれ感や痛みを引き起こし、リハビリ遂行の障害となる場合があります。

この場合は、ステロイドや神経障害性疼痛治療薬などの薬物療法を検討していきましょう。

 

・自律神経障害

脊髄損傷における自律神経障害の症状は多様で、1つ1つ解説するのは難しいです。

脊髄損傷における自律神経障害の特徴を理解し、医学書等に記載されている基本を踏まえた上で、対応していきましょう。

特徴的な症状としては、排尿障害・消化器症状・褥瘡・体温調節障害・低血圧・自律神経過反射・起立性低血圧・腎機能、体液調節障害・性機能障害などがあります。

・呼吸障害

C1-4の損傷では、呼吸障害を呈する事が多いです。

C1-2障害では、横隔神経麻痺による横隔膜の機能不全により、自発呼吸ができず人工呼吸器または横隔神経ペーシングなど、呼吸補助装置を避ける事ができません。

C4損傷では、横隔膜呼吸は可能ですが、肋間筋は麻痺を呈しているため、肺活量・最大換気量は低下し、拘束性換気障害の状態となってしまいます。

そのため、早期より安静臥床を避け、肺炎予防に努めなければなりません。

それに加え、排痰訓練や体位変換、呼吸補助筋の強化や呼吸関連筋の拘縮予防も、しっかり行っていく必要があります。

 

さいごに

脊髄損傷に対するリハビリテーションの研究は多くあり、ある程度予後予測が可能となっています。

症例によっては、予後以上の改善をみせるため、残存機能を活かしたリハビリテーションを行い、患者様の人生を狭めるようなリハビリテーションを行わないよう、日々の勉学・臨床に励んでいきましょう。

 

参考文献

標準理学療法学 解剖学

日本整形外科学会 脊髄損傷

脊髄損傷に対するリハビリテーション