リハラボ

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腱板断裂の手術と術後リハビリテーション

はじめに

肩関節は、人体の関節の中でも、自由度が高く複雑な関節です。そのため、私たちセラピストはその痛みや可動域制限に悩まされることが多いと思われます。肩関節疾患の中でも、厄介なのが腱板断裂ではないでしょうか。日常生活活動に大きな影響を与え、改善には数ヶ月を要します。今回は腱板断裂のリハビリテーションについて、お話していきます。

 

概要

腱板断裂について

回旋筋である4つの筋のいずれかが断裂した状態を指し、40歳以上、特に男性(男62%、女38%)の発症が多く、右肩に好発します。発症年齢のピークは60代です。

 

腱板とは

腱板とは、肩周囲を走行するインナーの筋であり、主に棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋で構成されています。主な役割としては、肩関節窩に対し上腕骨頭を求心性に保ちながら、回転運動を可能にしています。

 

原因と病態

背景には、腱板が骨と骨に挟まれているという解剖学的関係と、腱板の老朽があり、中年以降に発症しやすい疾患です。明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、生活動作の中で腱板断裂が生じます。

 

診断

腱板断裂の診断には、肩の疼痛・拘縮の有無、挙上時の軋轢音の有無、X線画像やMRIなど総合的な評価を実施します。リハビリでも整形外科テストを行い、評価を行う事ができます。具体的な評価方法としては、Hawkinsテスト・外転テスト・empty canテスト・full canテスト・drop armテスト・肩関節外旋テストがあります。
評価の概要を簡単にまとめておきます。
(1)Hawkinsテスト
インピンジメントの代表的な評価。肩を前方に挙げた状態で、肘を90°に曲げ、肩を回旋させ手を身体の内側に持って行く。疼痛が出現したら、陽性。
上腕骨頭が肩峰下アーチに上手く滑り込む事ができず、摩擦や衝突するかを評価できます。
(2)外転テスト
肩関節を外転させていき、疼痛または外転仕切れなかったら、陽性。
腱板筋の中でも、棘上筋・棘下筋は外転に作用します。それらの筋に断裂・損傷があるかを評価できます。
(3)empty canテスト
両上肢をやや外転させ、母指を下方に向け手のひらが外になるような状態で、下方に向かって抵抗を加える。疼痛が生じたら陽性。
このテストでは棘下筋に対しストレスをかけ、疼痛を誘発させます。棘下筋の異常を評価する事が可能です。
(4)full canテスト
empty canテストとは逆に、母指を上方に向けた状態で、下方に向かって抵抗を加える。疼痛が生じたら、陽性。
このテストでは、棘上筋に対しストレスをかけ、疼痛を誘発させます。棘上筋の異常を評価する事が可能です。
(5)drop armテスト
上肢を他動的に外転させ、自動的にゆっくりと下げていく。疼痛が生じるか、90°程度から保持できず落下してしまうと、陽性。
このテストでは、腱板の役割である、上腕骨を求心位保つ事ができず不安定となり、落下や、疼痛を誘発させ、腱板機能の異常を評価する事が可能です。
(6)肩関節外旋テスト
肩関節外旋筋の筋力テストを両側同時に行い、明らかな左右差が生じれば陽性。
他にも、lift offテストや内旋筋テストなどがあります。
肩関節疾患全般に使用する事が可能で、腱板断裂の診断でない方でも、上記の評価等を実施し、疑う事が可能になると良いです。

 

治療

腱板断裂の治療としては、保存療法と手術療法があります。

保存療法

腱板断裂は基本、保存療法が第一選択となります。炎症に対し、ステロイド剤等を使用し、症状を緩和させます。断裂部位が自然に治癒する事はありませんが、リハビリにより肩周囲の筋肉を訓練し、肩の挙上が可能となります。

 

手術療法

保存療法で通院治療しても、痛みの緩和や肩挙上時の引っかかりがとれない場合や肩に力が入らず挙上できない場合は、手術療法の適応となります。手術には直視下手術と内視鏡使用した鏡視下手術があります。鏡視下手術の方が侵襲が少なく、負担が少なくなります。手術後は、装具を使用し4週間ほど固定します。

 

腱板断裂に対するリハビリテーション

治療として、保存療法・手術療法のどちらもリハビリは必要不可欠です。しかし、リハビリの進め方は異なります。特に、手術療法では、その後のリハビリの進め方にはプロトコールが存在し、基本的には時期に応じて、プロトコールに従いリハビリを進めていく形になります。

 

手術後のリハビリテーション

通常、手術後は外転装具を使用し、固定します。固定する肢位としては、肩関節屈曲・外転約45°に設定します。
①固定期 術後~3週目
術後3週目あたりまでは、固定期とよばれ、常に装具を装着し固定している期間です。この時期における運動療法の内容としては、頸部・肩甲帯のスパズム除去、他動運動、肩以外の各関節における自動運動が主です。日常生活では、良肢位保持やADL指導を行います。
②移行期 3週目~5週目
3週目からは、移行期にあたり積極的かつ慎重に自動運動を行っていく時期になります。運動療法の内容としては、肩関節の自動運動が主です。まずは、背臥位にて重力の影響をなるべく除いた状態からスタートし、等尺性時の抵抗により、座位・立位と重力下に置き、負荷を少しずつ与えていきます。
③機能訓練期 5週目~12週目
5週目~12週目は、機能訓練期にあたり、自動運動から抵抗運動へと負荷を上げ、かつ機能に即した訓練を積極的に行っていく時期になります。運動療法の内容としては、腱板機能訓練(抵抗運動)、肩・肩甲骨周囲の抵抗運動、肩関節複合運動(抵抗運動)が主です。日常生活では、結髪・結帯動作や軽作業を指導していきます。
④アスレティックリハビリ期 12週~10ヶ月
12週から10ヶ月はアスレティックリハビリ期にあたり、主に職場復帰や競技復帰、競技完全復活していく時期になります。運動療法の内容としては、オーバーヘッド動作が主です。

 

保存療法時のリハビリテーション

保存療法時のリハビリとしては、主に断裂した筋以外で、肩を動かせるように訓練をしていきます。炎症や疼痛の有無により、訓練内容は異なります。
①炎症期
断裂直後は、2~3週間程度炎症が持続し、わずかな動作でも疼痛を誘発してしまいます。そのため、ステロイド剤などにより炎症・疼痛を緩和させ、訓練を行います。この時期における運動療法の内容としては、他動運動、その他関節の自動運動、頸部・肩甲帯のリラクゼーションが主です。他動運動では基本、背臥位にて行い愛護的に動かし、拘縮予防を図ります。
②拘縮期
炎症が治まると、拘縮期に移行します。見極めとしては、安静時痛と夜間時痛を目安にしていきましょう。この時期の運動療法としては、自動運動、抵抗運動、機能訓練が主となります。腱板断裂で一番多いのは棘上筋です。これを代償するため棘下筋が過緊張となりやすいため、緊張緩和のためのリラクゼーションは欠かせません。また、棘下筋の過緊張は、肩関節外旋の可動域制限を来しやすく、肩関節挙上時の前腕の回外を制限され、インピンジメントを引き起こしやすいため、注意が必要です。
③機能訓練期
この時期になると、ある程度肩関節は挙上できる範囲が広がっており、機能訓練を中心に実施していきます。運動療法の内容としては、肩関節複合運動、結髪・結帯動作、ADL動作指導が主となります。複合運動としては、結髪動作に必要な、肩関節屈曲・外転・外旋、肩甲骨の上方回旋と内転、結帯動作に必要な肩関節伸展・内転・内旋、肩甲骨下方回旋と外転を意識して積極的に行っていきましょう。

 

おわりに

肩関節は非常に複雑な関節であり、よく我々セラピストを悩ませる事があります。焦って無理な運動を行い、セラピスト自身が新たな炎症や疼痛、可動域制限を作らないよう、じっくり訓練を積み重ねていく事が重要です。