リハラボ

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膝の痛みの原因を徹底解説!

はじめに

膝の痛みを引き起こす疾患として、国民の5人に1人は症状の兆候があり、言わば国民病とも呼ばれている「変形性膝関節症」(以下、膝OA)。膝OAをはじめとする関節疾患は、介護保険における要支援や軽度要介護者になる原因として注目されております。日常の診療でよく目にする疾患ではありますが、膝の痛みが起こる原因を正しく患者さんに伝えていることができていますか?理学療法士として、アプローチ対象となることが多い関節疾患だからこそ、もう一度きちんと病態を整理しておきましょう。

 

膝OAの発生要因

膝OAの簡単な疫学として、膝関節の変性が進行する原因を特定できない1次性のものがほとんどで、男女比は1:4で女性に多く、内側型(膝内反変形:O脚)が90%と大半を占めています。この1次性膝OAの発生要因としては、まず年齢(50歳以上)、性別(女性)、遺伝的要素、肥満などの生物的素因があります。これに加えて、膝関節の損傷につながる力学的負荷を生み出す、バイオメカニクスの問題が加わり、原因をより複雑化させています。そのためはっきりとした発生の原因が特定できないのです。

 

Kellgren-Lawrence分類(KL分類)について

膝OAの診断の1つに、レントゲン画像から判別するKellgren-Lawrence分類(以下「KL分類)があります。変性の進行度によってGrade0~Ⅳまであり、日常的によく使われる分類ではありますが、臨床症状との相関は低いです。レントゲン上では明らかに変形が進んでいるからといって、その患者さんが必ずしも膝の痛みを訴えているとは限りません。またその逆で、変形は進行していないが膝に強い痛みがあるケースもあります。つまりKL分類だけでは痛みの原因を判断するには情報量が足らず、問診やストレステストなどを組み合わせて推論していく必要があります。

 

痛みが発生するメカニズム

患者さんに対して「膝が痛いのは軟骨がすり減って骨と骨がぶつかって痛い」と説明していませんか?勘違いしやすいですが、その説明は間違いです。膝関節の解剖学書を参考にして頂ければわかりますが、関節面には強い痛みを引き起こす骨膜はなく、力学的負荷がたとえ骨まで達したとしても、痛みを伝える神経細胞は存在しないので骨と骨がぶつかって痛いということはありません。
痛みが発生する一番の原因は、滑膜の炎症だと言われています。関節軟骨に対する力学的負荷が軟骨の変性と分解を促す酵素を産生し、軟骨代謝の異常を引き起こします。この代謝異常の過程で、滑膜の炎症を引き起こし痛みの原因となります。また破壊された関節軟骨が遊離し、滑膜を刺激する事でも強い痛みが生じることがあります。
そして炎症を繰り返していく事によって、関節軟骨と関節包内側を覆う滑膜の変性が相まって、半月板や靭帯・筋を含む関節構成体すべての退行性変化が進みます。そうなると関節由来だけではなく、表在の組織が痛みを複雑化していきます。

 

膝内反モーメントと軟骨変性

痛みが発生するトリガーとなるのは、関節軟骨への過度な力学的負荷だということはご紹介しました。加えて日本では内側型膝OAが大半を占めるため、膝内反変形による内反モーメントが問題となります。この膝内反モーメントの大きさを決める因子は、床反力の大きさと膝関節・重心線間の距離になります。そのためアプローチの方向性としては、減量指導やアライメントの修正、膝内反モーメントから膝関節も守る筋力をつけることが挙げられます。

 

膝の痛みの鑑別

膝の痛みを訴えている患者さんを目の前にしたら、最初に何を行うべきなのでしょうか?それはリハビリ、すなわち運動療法を行ってよいのかどうかを判断することです。これから治療を展開していく前に必ず確認しなければ、治療どころか症状を悪化させてしまうことになりかねないので、重要な評価になります。
順を追って説明しますと、まず問診で炎症性の痛みなのか、力学的負荷が痛みの原因になっているのかを判断します。
具体的には①「寝ている時や座っている時に痛いですか?」
②「立ち上がりや階段の時に痛いですか?」
③「歩いている時痛いですか?」
①で「はい」ならば、炎症性の痛みが疑われます。鑑別診断としては膝蓋跳動テストを実施し、関節内に水腫の兆候がないか確認します。②で「はい」ならば、膝蓋大腿関節の痛みが疑われます。その部位の圧痛で鑑別できます。③で「はい」ならば、大腿脛骨関節の痛みが疑われます。やはりその部位の圧痛で鑑別できます。

 

まとめ

膝OAを起因とする膝関節の痛みについて解説してきました。患者さんが痛みに関する正しい情報を知ることは、アドヒアランス(患者さんが提示された治療法を理解し、主体的にその治療法に取り組んでいくこと)の観点から、リハビリを進める上で非常に重要です。その膝の痛みはどういうものなのかを患者さんに説明し、納得してもらうことが最良のリハビリの第一歩となるはずです。