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腰部脊柱管狭窄症(LCS)の基礎と理学療法

はじめに

腰部脊柱管狭窄症(以下:LCS)は代表的な腰部の疾患であり、今や社会現象となりつつある疾患の一つと言えます。

症状は腰痛から、神経症状まで多岐にわたり理学療法士として出会う機会も多いのではないでしょうか。

今回はそんな腰部脊柱管狭窄症について基本的な事項をおさらいするとともに一般的な理学療法での取組みについてご紹介していきたいと思います。

 

腰部脊柱管狭窄症の基礎知識

概要

脊柱管狭窄症は読んで字のごとく、加齢などの原因で骨や靭帯が変性することにより脊髄の通り道である脊柱管が狭窄されることにより、主に神経症状をきたすものを指します。

好発部位はL4-5、L3-4、L5-S1です。

 

腰部脊柱管狭窄症は一般に50歳ごろより発症し調査では50歳以上の一般住民で12.5%、70歳以上の高齢者においては2人に一人が罹患する可能性のある有名な疾患です。

 

症状

LCSの症状は神経の障害されかたによって馬尾型、神経根型、混合型の3つに分けられます。

脊柱管が狭窄すると硬膜が圧迫され結果脊髄に圧迫をきたします。

馬尾型では下肢、臀部、会陰などに感覚障害を呈し、神経根型では下肢、臀部の疼痛が主な特徴です。

 

以下に特徴的な症状をご紹介していきます。

①間欠性跛行

LCS特有の症状で一定時間連続歩行すると下肢の痛みやしびれなどを感じ歩行することが困難となる症状です。

しばらく休む、体を前屈することで再度歩けるようになりますが。間欠性跛行のような症状は閉塞性動脈硬化症などの循環障害などでも発生するので鑑別が必要です。

循環障害の場合は前屈や座って休憩することで症状が軽快することはなく、またLSCの間欠性跛行の場合、自転車での移動などの場合は症状が出現しないことも特徴です。

 

②感覚障害や疼痛

上記でも説明したように馬尾型では下肢、臀部などの感覚障害、神経根型では疼痛が起こりやすいとされています。

多くの場合は下位腰椎が好発部位であることから大腿、下腿、足部に症状が生じます。

L5神経根では臀部~代替後面、下腿の外側、足背に、S1神経根では臀部~大腿後面、下腿後面、足底に症状が出ます。

足底の感覚障害では「靴下をはいているような感覚」という表現など広範囲に部位を特定しにくい痛みや感覚障害を訴える為、しっかりとした聴取が重要になります。

 

④運動障害

感覚障害と同じように、障害されている神経の支配筋の筋力低下をきたすことがあります。

神経障害が高度の場合に脱力などが起こることも多く、ひどい場合は外科的な手術適応の対象となります。

 

⑤膀胱直腸障害

LCSの3~4%程度に膀胱直腸障害があるといわれています。

会陰部の感覚障害や尿失禁等の問題点があります。

膀胱直腸障害が出現している場合、手術適応となります。

 

⑥腰痛

間欠性跛行とともに来院される理由で多いのが腰痛です。

多くの患者が腰痛の訴えを持っていますが、LCSの場合腰痛自体はあまり強くない場合が多いといわれています。

 

診断基準

①理学検査

姿勢によって症状が変化する、ヘルニアは屈曲で悪化(後方に飛び出す)、LCSは伸展で悪化することが特徴とされています。

 

よって腰椎を伸展して症状が出るか確認するKempテストで約半数の場合が陽性になるといわれています。

また、SLRテストでは陰性になる為ヘルニアとの鑑別テストとしても使えます。

神経症状の有無については知覚検査や徒手筋力検査、深部腱反射をテストします。

LCSの馬尾障害ではアキレス腱反射の減弱や消失があるが運動知覚障害は認めないこともあるのが特徴です。

 

②画像検査

X線画像から椎間板の変性、脊柱のアライメントやすべり症などの有無を調べ、狭窄症の有無と程度を調べます。

MRIも脊髄造影では造影剤の及ばない脊髄神経溝内の狭窄の有無などの判断に有効です。

 

保存療法と手術治療

LCSは一般的に初期は日常生活には支障がないものの、活動時に軽い症状があるといった程度から始まります。

LCS患者の内、症状が軽度、あるいは中等度の方においては1/3~1/2で自然経過でも良好な予後が期待できます。

それ以外に関しては慢性的な経過をたどりますので原則初期は保存療法が適応となります。

 

保存療法では薬物療法やブロック治療、装具療法などが行われ、理学療法士などが介入する運動療法もその一つになります。

 

筋力の低下や明らかな知覚障害および膀胱・直腸障害を呈すると手術適応となります。手術療法では椎弓切除術を代表とした除圧手術が行われます。

 

またすべり症と合併している場合や腰椎の不安定性が強い場合、年齢や全身状態を加味したうえで腰椎固定術が適応となる場合もあります。

 

腰部脊柱管狭窄症の理学療法

理学療法および運動療法がLCSに有効あるという十分なエビデンスは得られていませんが症状である用電部痛や下肢痛においては理学療法と運動療法の組み合わせは有効と言われています。

介入の目的と代表的なアプローチは以下の通りです。

 

①ストレッチ

脊柱を伸展位に持っていくと症状が出やすいですが、LCSの患者さんは屈曲の方向に持っていくと症状が緩和します。

膝を抱きかかえるようにして体を丸めるストレッチを行うことで一時的にではありますが症状は緩和される場合があります。

一番の理想は患者自身がセルフでこのストレッチを行えることです。

下記の筋トレと併せて実施していきましょう。

 

②腹部、大臀筋のトレーニング

LCSは脊柱の伸展時に症状が出ることの多い疾患です。

特に腰椎は骨盤との関係性で前弯するため過度な前弯を抑える為に姿勢にアプローチしていく必要が有ります。

原因の一つとして腹部の筋肉の低緊張が考えられます。

腹直筋、腹横筋、腹斜筋など腹部の代表的な筋肉をトレーニングしていきましょう。

LCSの患者さんは症状のでる姿勢を避けるため放置しておくと脊柱が前弯しより腹部の低緊張を助長します。

自宅などでもできるエクササイズを取り入れていきましょう。

また同様に大臀筋も骨盤を後傾方向に持っていく重要な筋肉ですので合わせてアプローチを行っていきましょう。

 

③2次的な障害の予防や日常生活指導

LCSの患者さんは腰痛や下肢の症状の為、日常生活での活動性が低下してしまう方も多いです。

その結果廃用性の筋力低下を代表とする2次的な障害を引き起こしやすいといえます。

また筋肉の部分でもご説明したように、姿勢の変化を防ぐために歩行器を提案する、日常生活上の痛みが出る動作について聴取し、腰椎が伸展方向に入らないように指導するなど病院以外での心得についても目を向けていく必要があります。

 

最後に

いかがだったでしょうか。

腰部脊柱管狭窄症はポピュラーな疾患の一つですがいまだにわかっていない部分も多くエビデンスが徐々に出てきている状況です。

理学療法士として基本的な部分を理解し、その他さまざまな腰痛を引き起こす疾患との違いを見逃さず、二次的な障害の予防や生活、姿勢指導に対してもしっかりと目を向けていく必要性があります。

 

【参考文献】

腰部脊柱管狭窄症ガイドライン 2011

宮本雅史、元文芳和他、腰部脊柱管狭窄症の診断治療、J Nippon Med Sch 2002:69(6):583

北出一平、佐々木伸一他、脊柱管狭窄症、理学療法23巻1号:317 2006年1月