リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

鎖骨骨折のリハビリテーション

はじめに

鎖骨骨折は、全骨折中の約10-15%を占めるほど、頻度の多い骨折です。

ほとんどの場合、予後は良好で、リハビリも治療に関わってくる骨折です。

今回は、鎖骨骨折の基礎とリハビリテーションについてお話していきます。

 

概要

解剖

鎖骨は胸部の上部、肩の前部にある骨で、緩いS状の長骨です。

内側は、胸骨と胸鎖関節を、外側では肩甲骨と肩鎖関節を形成します。

最も早く骨化し始め、最も遅く骨化が完成(25-30歳)し、内部は海綿質で満たされ骨髄は存在しますが、長骨であるが髄腔は存在しません。

 

○鎖骨に付く筋と付着部

・胸鎖乳突筋:前内側1/3   

・大胸筋:前内側1/3

・鎖骨下筋:下面中央1/3   

・三角筋:前外側1/3

・僧帽筋:後外側1/3

 

鎖骨の役割

・上肢と体幹の連結

鎖骨は肩甲骨と胸骨を介し、上肢を体幹へつなぎ止める働きをしています。

 

・血管と神経の保護

鎖骨後方には、大きな血管や神経が走行しており、それを保護する役割もしています。

 

・肩の動作の支点

鎖骨が胸鎖関節にて肩甲骨の動きの支点となり、肩関節の自由度が増します。

鎖骨は、肩挙上の際、鎖骨では30-40°の挙上と45°程度の回旋が生じます。

 

鎖骨骨折について

鎖骨骨折の原因は、スポーツや交通事故、転倒などによって肩や腕に強い衝撃を受けて折れる場合が多く、骨折の瞬間には、骨が折れる音が聞こえる方もいます。

症状は、骨折部の腫脹や疼痛、熱感の他に、肩挙上の困難や挙上時の疼痛が現われます。

また、ズレが大きい場合は、外観からも分かる場合もあります。

診断方法は主にレントゲン画像の検査によって、行われます。

ズレが小さい場合は、見逃される場合もあるため、上記の症状が持続した場合は、専門の医師に相談する事をオススメします。

治療方法は、主に保存療法と手術療法があり、ほとんどの場合保存療法が適応となります。

しかし、ズレが大きい場合や開放骨折や神経・血管を傷つけている場合は、手術療法が適応となります。

鎖骨骨折の場合、骨の癒合は手術をした場合でも、4-12週間かかります。個人差がありますが、年齢が若い方が治癒は早いです。

 

鎖骨骨折のリハビリテーション

保存療法、手術療法どちらにもリハビリは必要です。

 

保存療法

保存療法の場合、クラビクルバンドを使用し固定します。

理由としては、鎖骨骨折は折れた鎖骨が重なるように転位していきます。

そのため、クラビクルバンドを使用し、転位しないよう固定します。

鎖骨骨折の場合、関節を構成している肩の可動域に大きな影響を及ぼします。

 

また、骨癒合がある程度完了していなければ、1-4週間は肩関節90°以上の挙上が禁止となるので、肩の拘縮予防が主なリハビリ内容となります。

1-4週のリハビリ内容としては、肩関節周囲の筋のストレッチやリラクゼーション、体幹のストレッチが主となります。

また、骨の癒合状態から、鎖骨を他動的に愛護的に動かしていき、鎖骨の可動域拡大を図ります。

 

鎖骨骨折では、訓練だけでなく生活指導も必要です。

まずは、上記でも話した通り、90°以上の挙上が禁止であるため、洗髪や家事等の動作指導が必要です。

また、就寝の際、寝る向きにも注意が必要で、受傷部位を下にして寝る事が無いよう指導が必要です。

 

手術療法

手術療法では、プレートやスクリューを使用し、鎖骨を固定します。

手術療法の利点としては、保存療法よりも転位が少ない事にあります。

しかし、創部感染等のリスクもあるため、注意が必要です。

 

保存療法の場合は、前日より入院し、翌日手術を受けます。

リハビリは、術後翌日からの介入が多いですが、術前からの介入をしばしばあります。

 

・術前

術前のリハビリでは、下肢のストレッチ等を実施し、循環の維持を行ったり、肩周囲のストレッチやリラクゼーションを実施します。

 

・術後-2週

術後では、肩の挙上が90°以上可能となりますが、ほとんどの場合、回旋によるズレや負荷が掛かってしまうため、2週間程度は90°以下での訓練を行う事になります。

この時期では、炎症と疼痛管理に注意が必要です。

内容としては、術創部周囲の皮膚のマッサージや他動的・自動的な肩の可動域訓練、肩関節周囲筋の筋力増強訓練が主です。

術後は疼痛が強いため、肩周囲筋のストレッチやリラクゼーションを図り、拘縮をつくらないようにしましょう。

また、訓練後は、術創部周囲の熱感が増大している場合があるため、アイシング等で、ケアを行っていきましょう。

 

・2-4週

この時期では、肩の挙上制限が解除され、積極的に動かしていく時期にあたります。

疼痛等に留意しつつ、愛護的にまずは他動的に可動域訓練を行っていきましょう。

ある程度、可動域が拡大してきたら、洗髪や結滞動作等を取り入れ、日常生活動作訓練も行っていきましょう。

 

・4週以降

ほとんどの場合、この時期には退院し、自宅で生活している時期になります。スポーツ復帰は医師と相談し、10-12週を目安にしていきましょう。

また、拘縮が残ってしまった場合には、外来にてフォローしていく事になります。

この場合の原因のほとんどは、術後の炎症や疼痛が強く、リハビリの進捗状況が悪かったり、筋の硬結などにより拘縮が強かった事にあります。

特に年齢層が高齢になるほど多く、時間がかかる場合もあるため、自主練や生活指導を交えながら、訓練を行っていきましょう。

 

最後に

鎖骨骨折は頻度も多く、臨床で経験する機会が多い症例です。

予後良好ではありますが、肩の拘縮を伴うケースは多く、長期のリハビリを強いられる方も中には居ます。

肩のみならず、鎖骨へのアプローチも忘れず行っていきましょう。

 

参考文献

分担 解剖学

標準整形外科学

日本骨折治癒学会