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高次脳機能障害の基礎

はじめに

臨床場面において、高次脳機能障害の患者さんに出会う機会は多くあると思います。

しかし、症状は多岐にわたる上、質や程度の幅が大きいため、スクリーニング検査だけでは症状がとらえられないことも多く、頭を悩ませた経験もあるのではないでしょうか。

ここでは、高次脳機能障害の基本的な症状について解説していきます。

 

定義

主として大脳、大脳辺縁葉、視床、視床下部、中脳など、中脳神経系のうち比較的高位に位置する領域の損傷によって生じる行動および認知能力の障害とされます。

行動とは、眼球運動、発話、肘を曲げる、指をさす、歩く、走るといった一関節の運動から全身的な動きまで、人が引き起こす全ての動きを含みます。

認知とは、いわゆる精神的な行動を指し、意識、感情、記憶、思考、知覚、問題解決等を含みます。

症状を評価する上で、外見としてとらえることができるのは行動の障害であって、認知の障害は全てが外から観察できるとは限りません。

 

注意障害

注意機能は、以下のように分類され、これらの機能が密接に関係し症状が現れます。

 

・覚醒度

目を覚まして外界に対する刺激に適切に対応できる状態を指し、低下するとぼんやりと頭が冴えない、集中が続かないといったことが生じます。

 

・持続的注意

思考や行為を有効に成立させるために、選択した刺激に注意を向け続けることです。

これが障害されることで、同じ動作を継続して行うことができず、他の事に注意が逸れたり、ミスが増えるといった症状に現れます。

 

・選択的注意
多くの刺激の中からある特定の刺激を選び、そこに注意を集中することをいいます。

これが低下することで、沢山の物の中から自分が探している物を見つけられなかったり、騒音の中から話し相手の声を選択的に聞き取ることができないといったことが生じます。

 

・注意の転換性(転動性)

一定の刺激に注意を向けつつ、必要ならより重要な刺激に向けて注意を切り替えることであり、亢進するとひとつの事に集中できず、周囲の関係のない刺激に注意が逸れてしまいます。

一方、低下すると他のことにうまく注意を転換できず、ひとつのことに固執してしまいます。

 

・配分的注意

複数の刺激に同時に注意を配る機能です。

障害されることで、話を聞きながらメモを取ることや、複数の作業を同時進行する料理などが困難になります。

 

記憶障害

短期記憶障害では少量の情報を銘記、短い時間保持し再生することが困難になり、数桁の炊事の復唱や数分前に記憶した単語を忘れるといった障害が現れます。

意味記憶の障害は、語彙や概念等の知識に関する記憶が障害され、言葉の意味が理解できない、説明することができないといったことが生じます。

エピソード記憶は個人的な体験・出来事、いわゆる思い出に関する記憶であり、障害された時点から見て、後の(新しい)情報の記憶が障害されることを前向性健忘、前の(古い)情報の記憶が障害されることを逆向性健忘といいます。

 

半側空間無視

右半球脳損傷後の高次脳機能障害として最も多くみられます。

右半球の脳血管障害の急性期において軽度のものも含めれば、半側空間無視は約4割の患者に認められています。

半側空間無視は、大脳半球の病巣と反対側の刺激に対して、発見して報告したり、反応したり、その方向を向いたりすることが障害される病態とされています。

多くは右大脳半球が空間性注意において優位であるため、左の半側空間無視が多く認められます。

例として、食事を食器の左側だけを残す、左上肢や下肢が車いすから落ちていても気づかない、左側に置いてある物が見つけられない等が挙げられます。

 

失認

・視覚失認

物体を認知するための視力や視野が保たれているのに、そのものが何であるかわからない状態です。

これにより、物品の呼称や使用法の説明、図の模写等が困難になります。

 

・相貌失認

知っている相手の顔を見ても誰なのかわからないという症状が現れます。

人の顔であることや、目や鼻等の構成の認知は保たれていますが、馴染みのある人の顔でも名前やどういった人物かが言えなくなります。

一方で、顔を対象とする認知障害であるため、相手の声を聞くと誰であるか認知することができるのが特徴です。

 

・地誌的障害

熟知した建物や風景、道順等の認知が障害され、よく知っている場所を想起できなかったり、道に迷ってしまう状態です。

よく知っている街並みの同定が困難となる「街並み失認」、今いる場所や建物がわかるが、目的地までの道順の想起が困難になる「道順障害」、知っている場所の地図や部屋の間取りを想起することができない状態の「地誌的記憶障害」に分類されます。

 

・聴覚失認

聴力は保たれているが、聞こえた音が何であるかわからない状態をいいます。

側頭葉を中心とした損傷によって多く認められます。

よく知った動物や車、電話などの音に対する認知が障害されます。

 

失語

失語は発話の流暢さによって「流暢性失語」と「非流暢性失語」に分類され、程度は異なりますが、大きく分けて発話、理解、呼称、復唱が障害されます。

 

①流暢性失語・・・発話が比較的滑らかで自発話の量が正常に近い状態です。

 

・ウェルニッケ失語
中~重度の理解障害、復唱障害があり、発話は流暢で多弁ですが錯語が多いのが特徴です。理解と換語が困難なため、会話がかみ合わないことや内容に乏しいことが多いです。
主に左頭頂葉後上部に起こり、後方への範囲が広いとより読み書きの障害が強く生じます。

 

・超皮質性感覚失語

理解障害、換語の困難さが生じます。

復唱が良好であることが、ウェルニッケ失語とは異なる特徴です。

 

・健忘失語

流暢な発話、理解と復唱も良好な一方で、換語の困難さや迂言、指示代名詞が目立ちます。

錯語も生じますが、多くは言い間違えたことを自身で気付くことができます。

 

・伝導失語

音韻性錯語の目立つ発話および復唱と呼称を特徴とします。

書字においても錯書がみられます。

しかし、言い間違いに自身で気付き、修正することができます。

理解はほぼ正常に保たれています。

 

②非流暢性失語・・・発話がないか、少ししか話さない状態です。

 

・ブローカ失語

理解障害は軽度~中等度であり聴覚的理解は比較的保たれています。

発話量は少なく、一語~数語の努力的な発話となります。

復唱や書字においても同程度の障害がみられます。

 

・超皮質性運動失語

高音は良好であるものの、著しく発話量が低下し、話をしても時間がかかり短文しか話せない状態になります。

聴覚的理解はブローカ失語と同程度に比較的良好ですが、呼称や書字は困難になります。

 

・全失語
発話、理解、復唱、呼称、読み書きが重度に障害されます。

発話はほぼなく無言の状態であることが多く、あっても意味のない発声となることがほとんどです。

 

・混合型超皮質性失語

復唱のみ良好で、それ以外は全失語と同程度で重度に障害されます。

発話もほとんどない状態となります。

 

失読、失書

読み書きする能力の障害であり、読み及び理解の障害、書字の障害、読み書きの両方とも障害される場合があります。

 

・純粋失読

書字能力は保たれますが、音読することと理解の障害がおこります。

単語よりも文章でより障害が明らかな場合が多く、なぞりながら読むことで音読が可能になることが多いです。

 

・純粋失書
自発書字、書き取りが困難になる状態で、通常両手に現れます。

書くことができても、その過程で想起や書字に時間がかかったり、書き方に迷うといった所見があれば失書と判断されます。

読みの能力は保たれています。

 

・失読失書

失読と失書が同時に生じたものであり、読みと理解、書字が困難になります。

 

行為の障害

運動麻痺がないにも関わらず、動作を遂行することが障害されたり、意思とは反する行為や行動がおこる状態です。

 

①失行

運動麻痺がないにも関わらず、行為の遂行が困難になります。

 

・観念運動失行

動作の模倣及び道具を使う真似が困難になります。

例えば、バイバイと手を振る動作の模倣や、くしで髪をとかす真似(実際に道具は使わないパントマイム)ができなくなります。

 

・観念失行

道具を使用方法や持ち方を間違えたり、動作の使用方法を説明することが困難になります。

 

・肢節運動失行

普段から行っている慣れた動作でも動作がぎこちなくなったり、拙劣さが生じます。

 

・拮抗失行

左右で反対の行為を行ってしまう状態です。

例えば、右手では本のページをめくろうとしているのに、左手はそれを邪魔しようとするといった行為がみられます。

 

・脳梁失行

右上肢の行為は保たれますが、左上肢において錯行為や保続といったことが生じます。

口頭命令での動作や道具使用の模倣などでみられることが多いです。

 

②運動維持困難

開眼、開口、挺舌などの動作を一つあるいは二つ以上同時に維持することができなくなります。

例えば、指示した秒数の閉眼維持ができなかったり、上肢の挙上を保つよう教示してもすぐに中断してしまうといった所見があります。

 

遂行機能障害

遂行機能は人が目的的活動を営んだり、問題を計画的・合理的に解決する上で必要な機能であり、「目標の設定」「行為の計画」「計画の実行」「効果的な行動」の4つの要素からなっています。

遂行機能障害はこれらの要素を機能させるための判断や思考が障害された状態をいいます。

言語、記憶、行為などの機能は保たれていますが、それらを制御し統合することができない状態です。

例えば、仕事において優先順位を決めたり効率良く作業を進めることができなかったり、料理の献立や分量など計画を立てて作ることができないといったことがおこります。

高次脳機能の各検査や入院中の自由度の低い生活においては、症状が明らかに現れないことも多く、後に気づく場合もあるため遂行機能障害の可能性についても念頭において評価する必要があります。

 

おわりに

ここまで様々な症状について説明してきましたが、実際に患者さんを診るといくつかの要素が混ざり合っていることも多くあると思います。

まずは基本に返り、各症状の概要と特徴を把握することで、患者さんに起こっている症状を理解しましょう。

そして、今後の高次脳機能に対する評価やその先の治療に役立てて頂けたら幸いです。

 

1)山鳥重,高次脳機能障害マエストロシリーズ①基礎知識のエッセンス,医歯薬出版株式会社:12-13
2)鈴木孝治,高次脳機能障害マエストロシリーズ③リハビリテーション評価,医歯薬出版株式会社:48-49,101
3)石合純夫,高次脳機能障害学,医歯薬出版株式会社:25-78,121