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変形性膝関節症の概要と治療法

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はじめに

整形外科疾患の中で出会うことの多い疾患ベスト3に入るほど、変形性膝関節症(以下:膝OA)はポピュラーな疾患です。

それもそのはず、現在膝OAの患者さんは2500~3000万人以上いるといわれており国民の5分の1は膝OAを患っているとされます。

理学療法士としてはこういった現状を踏まえて適切なリハビリテーションが提供できるように疾患の特性など基本的なことを知っておく必要があります。
今回はそんな膝OAについての基本的な疾患の情報、手術などをご紹介していきましょう。

 

基本的なアプローチの方針を立てるためには疾患の理解が重要

疾患の概要(原因など)


膝OAは関節軟骨や半月板等膝のクッション作用を担う組織が磨耗し、膝に炎症症状や変形などが起きる疾患です。

原因は関節軟骨の老化とされていますが、遺伝性によるものや肥満による因子の影響もあるといわれています。
また外傷や、化膿性関節炎やリウマチを原因として2次的に膝OAになることもわかっています。


膝OAのステージ


膝OAは関節の状態を目安にその状態に合わせて治療方針が決定されます。

患者さんの状態を把握するのに有効ですのでこの機会に把握しておきましょう。

膝OAにはKellgren-Lawrenceの分類が使用されます。

 

・グレード0:正常
・グレードⅠ:疑わしいわずかな骨棘がある
・グレードⅡ:明確な骨棘、関節裂隙の狭小化が25%以下
・グレードⅢ:中程度の骨曲、関節烈隙の狭小化が50~75%が明確、硬化像中等度程度
・グレードⅣ:著明な骨棘、関節裂隙の狭小化が75%以上が中程度、硬化像著明、関節輪郭の変形が明確

 

多くの例ではグレードⅢ以上の場合で手術適応となる事が多いようですが、あくまで手術適応や保存療法の最終的な判断は医師が行いますので、主治医の方針を把握しておく事も重要ですね。

 

変形膝関節症の症状について

 

膝OAには前述のように、膝の状態を示す言葉で、膝に特異な疾患がない場合や外傷などがない場合でもなりますし、化膿性関節炎やリウマチなど明らかな原因があるものもあります。

ここでは一般的に特に外傷や明らかな原因のない膝OAの症状を記載していきます。

関節軟骨の破壊による変形

そもそもMRIでは約半数の人に何らかの膝関節に異常が見られるといったデータもあるようにすべての人に痛みや炎症が必ずあるわけではありません。

初期には関節軟骨の摩耗が出現し、半月板の断裂や靭帯の損傷などに進行していきます。

変形により関節裂隙(関節と関節の間の隙間)が狭小し、特に膝の構造上膝内側に負担がかかり易い為、O脚と呼ばれる変形が強くなっていきます。

骨棘と呼ばれるものが形成されるようになり、それが関節のスムーズな動きを阻害して関節の動きが悪くなったり、痛みの原因になります。

痛み、炎症

緩衝作用を果たす軟骨や軟部組織の異常により膝には必要以上の物的ストレスが加わります。

また組織が破壊されますので当然、そこには炎症症状が発生します。

炎症症状として「痛み」があり、その痛みが患者さんのADL上の多くの動きを阻害することになります。

初期は朝に膝に違和感を感じることから始まり、階段昇降や歩行時の歩きだし、正座やかがみ動作で痛みが生じ始めるのが一般的です。

その痛みが進行し、強い炎症症状も加わることで、はては歩行困難にまで至ることも多々あります。

よく「膝に水が貯まる」という現象を耳にしますが、この「水」とは関節液のことで炎症が起きた際の生体反応として自然なものです。

水を抜いてもまた貯まるというのは関節液自体に問題があるのではなく、炎症が落ち着いていない反応であることととらえるのが自然です。

痛みによる2次的な障害

膝OAにより、日常生活に大きく支障をきたす主な症状は『痛み』です。

この痛みの影響によって患者さんは普段の日常生活で立ち上がりや歩行、段差昇降などの動きがおっくうになり、2次的な筋力低下や関節可動域制限をきたしやすくなります。

膝自体に直接出る症状に注目しがちですが、こういった日常生活での変化をとらえることは理学療法士にとっては非常に重要なことです。

 

変形性膝関節症の治療について

 

膝OAの治療には関節の状態は手術を行わないで治療を行う「保存療法」と「手術療法」の2つの治療方針があります。それらについて簡単にご説明していきます。

<保存療法>

運動療法

ほとんどの患者さんにおいて適応される治療方針の1つです。

膝関節は構造上筋肉の支持性を使って荷重を支えている部分が大きいので、大腿四頭筋やハムストリングス、股関節周囲筋の筋力を向上することによって痛みの軽減を図ります。

また痛みによって相対的に活動性の低下する患者さんに関しては廃用性の筋力の低下なども予見される為、日常生活に運動療法を取り入れるように指導を行うことも重要です。

関節の動き自体が悪くなることもある為、関節可動域を維持する取り組みも痛みの範囲内で積極的に取り入れていく必要が有ります。

薬物療法

痛みや炎症を抑える薬を内服し、同様の効果を持つ湿布薬を外用薬として処方されます。
また関節内にクッションの役割を果たし、炎症を抑える効果を持つヒアルロン酸を直接注射することで症状を抑える関節内注射、症状が強い場合に適用されるステロイド注射などもあります。

ヒアルロン酸注射を行う場合は週に1回、1ヶ月ほど続ける必要があります。

生活指導

膝の症状を改善する事も重要ですが、現在持っている膝の機能を活かし出来る限り膝に負担を与えないように生活する事も膝OAの患者さんには重要な事です。

極端な例で言うと和式トイレなどは過度に膝を曲げる為、症状のある患者さんの場合は洋式に変更する事が望ましいです。

身近な所では正座など、リウマチと同じように膝関節に負担のかかりにくい動作を選び、理学療法士が指導してあげることが非常に重要になります。

装具療法

膝OAの中には、歩行中の荷重時に強い痛みを訴え、日常生活が大きく阻害されている方も少なくありません。特に膝OAはO脚の影響により、膝の内側部に特異に荷重がかかりストレスを与える事が多くあります。

そんな荷重時の痛みを避けるため、サポーターを装着し膝関節の安定性を高めることもあります。

また靴のインソールを改良し、歩行時の衝撃の方向を変えることも装具療法に含まれます。

一般に販売されている膝サポーター(膝を暖めるようなもの)ではこのような効果は望めませんので、膝への負担を変えたい場合は医療用の膝サポーターを専門の医師の指導の下で使用することをお勧めします。

物理療法

膝OAの管理には『膝を冷やさない』事も重要なアプローチの1つになります。

温熱療法はホットパックや赤外線、低周波を使った物理療法を行い、疼痛の軽減や血行の促進を図ります。

<手術療法>

人工膝関節置換術

変形した膝関節を丸ごと金属やセラミックなどでできた人工のものに取り替える術式です。

うまくいけば痛みを感じている関節が人工のものに入れ替わる為、痛みの大きな改善が望めます。

高位脛骨骨切術

O脚により膝の内側に大きな負荷のかかった患者さんに対して、脛骨の一部を切除し人工骨を挿入して体重のかかる方向を変える手術です。

わかりやすくいえばO脚をX脚の方向に持っていくように手術をする方法です。

関節鏡視下手術

骨棘が原因により、痛みが出ている人に対して関節鏡下で作業を行い骨棘を取り除く手術を行います。

メリットは侵襲が非常に小さく出来るため、術後の負担がそこまで大きくなる事が無いのが特徴です。

 

最後に

いかがだったでしょうか。2025年は団塊の世代が75歳になる年、今後の高齢者の増加に伴い膝OAの症状を持った患者さんも増えていくことが予想されます。

痛みをうまくコントロールし2次性の能力障害を起こさないよう、患者さんの膝の状態をしっかりと把握していきましょう。