リハラボ

知っておくと役に立つリハビリの知識を紹介

肩関節脱臼のリハビリテーション

はじめに

肩関節脱臼は、整形を担当しているセラピストであれば、しばしば経験する事があると思います。

再発率も高く、リハビリを進めていく上で、指導やケアは重要で難しい部分が多いかと思います。

今回は、肩関節脱臼の基礎と基本的なリハビリテーションについてお話していきたいと思います。

  

概要

肩関節は、人体の関節の中で、最も関節可動域が広く、その構造上不安定にあります。

そのため、靱帯や筋肉などによって補強されています。

 

肩関節脱臼とは

肩関節は、上腕骨頭が肩甲骨にある関節窩の上に乗っているような構造をしています。

脱臼は、関節窩の上から上腕骨頭が外れてしまった事を指します。

また、脱臼には亜脱臼と脱臼があり関節面の一部に接触がある場合を亜脱臼。

完全に接触がないものを脱臼としています。

 

受傷機転と症状

主な受傷機転は、ラグビーやアメリカンフットボール、柔道やハンドボールなどのコンタクトスポーツやスキーやスノボーなどの転倒で多く発生します。

また、肩を挙上した状態で、後方に力が加わったときや、後ろから手を引っ張られたり、後方に手をついて転倒した場合にも脱臼する可能性があります。

症状としては、疼痛・腫脹、肩関節の挙上困難や変形があります。

合併症として、血行障害や神経麻痺(腕や指のしびれ)がみられることもあります。

 

診断

・視診:肩関節の丸みが消失して扁平化し、肩峰の突出が目立つ。

・触診:脱臼した骨頭を肩関節前下方に触れる事ができる。

・X線画像:X線画像にて確定診断を行います。AP画像よりも、Scapula Y viewの方が望ましいです。多くの場合、上腕骨頭後外側の骨軟骨欠損を伴います。

 

肩関節脱臼の型と重症度・予後

外傷性肩関節脱臼は、前方脱臼と後方脱臼に大きく分けられ、前方脱臼が90%を占めます。

また、10-20歳代の初回肩関節脱臼の50%以上が再脱臼を生じて、反復性脱臼へと移行します。

脱臼を放置すると、骨損傷・軟部組織損傷の拡大、神経麻痺などを起こす可能性があります。

また、経過するほど徒手整復が難しくなるため、早期に脱臼を整復する必要があります。

●重症度

・Ⅰ型(捻挫):肩関節の部分的な痛みだけで、烏口鎖骨靱帯・三角筋、僧帽筋は正常で、X線では異常ありません。

 

・Ⅱ型(亜脱臼):肩鎖靱帯が断裂し、烏口鎖骨靱帯は部分的に痛んでいますが、三角筋、僧帽筋は正常です。X線では、関節の裂間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれています。

 

・Ⅲ型(脱臼):肩鎖靱帯・烏口鎖骨靱帯共に断裂しており、三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れていることが多いです。X線では、鎖骨が完全に上にずれています。

 

・Ⅳ型(後方脱臼):肩鎖靱帯・烏口鎖骨靱帯共に断裂しており、三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れています。鎖骨の端が後方へずれている脱臼です。

 

・Ⅴ型(高度脱臼):肩鎖靱帯・烏口靱帯共に断裂しており、三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全に外れています。

 

治療

治療方法は、保存療法と手術療法があります。

脱臼の型や重症度、血行障害や神経症状などによって保存か手術かに分かれます。

 

Ⅰ型は、三角巾で手を吊り、始めの2-3日は患部を冷やし、その後は患部を暖め運動練習を行っていきます。

 

Ⅱ型は三角巾やテーピングなどで、2-3週間の固定を行います。

 

Ⅲ型では、中高齢者はⅠ型Ⅱ型同様保存療法が多く、若者やスポーツ、仕事で肩をよく使う人は、手術療法が多いです。

 

Ⅳ型・Ⅴ型は手術による整復を行います。

 

リハビリテーション

保存療法・手術療法共にリハビリの介入は行います。

 

保存療法

初回脱臼の場合は保存療法が選択される場合が多いです。

必ず、装具などを使用し、固定を行います。

固定期間は3週間程度行っている場合が多いですが、1週間以下と3週間以上では再脱臼率に差はありません。

そのため、主治医の指示に従いましょう。

また、内旋固定よりも外旋固定の方が再脱臼率を軽減させるために有効です。

受傷後からのリハビリテーションの流れとしては以下にまとめます。

 

・受傷-3週目

リハビリの目的としては炎症・疼痛コントロールにあります。

積極的にアイシングを実施していきましょう。

訓練内容としては、肩関節の直接的な運動は困難であるため、肩甲骨や肘関節といった肩関節周囲のストレッチ等実施し、拘縮予防に努めます。

 

・4-6週目

リハビリの目的としては、肩関節の可動域拡大と疼痛・炎症コントロールにあります。

この時期から肩関節の自動介助運動を行っていきます。

そのため、炎症や疼痛増悪を引き起こす可能性があるため、訓練後はアイシングを実施するなどして、ケアを十分に行っていきましょう。

訓練内容としては、肩関節の自動運動や肩関節周囲のストレッチや可動域訓練などを行い拘縮予防と可動域拡大を行います。

 

・7-8週目

リハビリの目的としては、肩関節の可動域拡大と筋力強化にあります。

この時期から肩関節運動に関わる筋肉のトレーニングを行っていきます。

また、自動運動での肩関節運動を行い、積極的に可動域拡大を図っていきます。

訓練内容としては、肩関節・肩甲骨の可動域訓練、等尺性での肩関節周囲筋の筋力増強訓練を行います。

 

・9-12週目

リハビリの目的としては、肩関節周りの筋力強化と可動域拡大にあります。

この時期から、回旋筋の積極的な筋力強化を実施していきます。

訓練内容としては、回旋筋腱板レジスタンスエクササイズ、肩甲骨のスタビリティエクササイズ、重錘を使用し、重力下での筋力強化を行います。

 

・12-17週目

リハビリの目的としては、全身の筋力強化とスポーツ復帰に向けての指導です。

この時期では、スポーツ・仕事などの特性にあった訓練を行っていきます。

 

・17週目以降

リハビリの目的としては、スポーツ復帰やオーバーヘッドスポーツへの復帰など最終的なゴール期間にあります。

 

手術療法

手術療法では、手術後次の日から介入を行います。

保存とは異なり、固定期間はありますがわずかながら自動運動が開始できます。

固定期間に関しては、保存療法と同様です。

手術療法時のリハビリテーションの流れとしては以下にまとめます。

 

・術後-3週目

リハビリの目的としては、炎症・疼痛コントロールと拘縮予防にあります。

術後終日で、下垂位での外旋20°までの運動が許可されるため、疼痛に留意しつつ行っていきます。

リハビリの内容としては、アイシング・他動、自動運動での可動域訓練・等尺性収縮での三角筋・回旋腱板筋の筋力増強訓練を行います。

訓練後は、炎症や疼痛増悪の可能性があるため、積極的にアイシングを行いましょう。

 

・4-6週目

リハビリの目的としては、可動域拡大と筋力強化にあります。

この時期から固定期間が終わり、装具を外してリハビリを行っていきます。

筋の硬結やそれに伴う拘縮が出現してくるため、積極的に可動域訓練やストレッチを実施していきます。

内容としては、自動運動での可動域訓練・回旋筋腱板の筋力増強訓練が主です。

 

・7-8週目

リハビリの目的としては、可動域拡大とADL指導にあります。

この時期から、下垂位外旋45°までの運動や90°以上の挙上が許可される場合が多く、積極的な可動域訓練を行っていきます。

また、ADLでは、外旋が強制されないよう指導を行う必要があります。

 

・9-12週目

リハビリの目的としては、積極的な筋力強化にあります。

この時期より、重錘を使用しての筋力強化を行っていきます。

訓練内容としては、最終可動域でのストレッチや回旋筋腱板レジスタンスエクササイズ、積極的な肩甲骨のスタビリティエクササイズを行います。

 

・12-25週目

リハビリの目的としては、スポーツ復帰に向けての指導にあります。

この時期より、非コンタクト系のスポーツの許可される事が多く、全身的な持久力訓練等を行っていきます。

 

・25週目以降

この時期では、スポーツ復帰に向け、そのスポーツの特性にあったトレーニングを行っていきます。

 

・10-12ヶ月

オーバーヘッドスポーツでは、基本的に10-12ヶ月を目標にスポーツ復帰を行っていきます。

 

手術療法では、重症度が高い場合が多く、その分リハビリ期間やスポーツ復帰までの期間が長く掛かります。

 

最後に

若い方ですと再脱臼率が高く、スポーツ選手である場合、選手生命の危機にもなります。

指導は難しいですが、少しでも支援できるよう、日々の勉学に励んでいきましょう。

 

・参考文献

 分担 解剖学

 日本骨折治癒学会

 ビジュアル実践リハ 整形外科リハビリテーション

 リハビリテーションビジュアルブック